3

1

第13話

「ブリクセン、あの文字だよ! あっ、右に曲がった!」





 夜空に黒い文字を追いかけるのは予想外に難しくて、何度も見失いそうになってブリクセンに文句を言う。



 星との距離が近づいてきたところで、文字を見失ってしまった。





「もう! フィンに会えなかったらブリクセンのせいだから……うっうっ」





もう少しでフィンにたどり着けそうだったのに。ブリクセンに八つ当たりをして泣いてる場合ではないのは分かってるが、涙はとまらない。




 クリスマスになると私の涙腺は壊れてしまうみたいだ。




 ソリを引くブリクセンは泣いてる私にオロオロしながらその場をグルグル回る。



 涙を拭いて顔を上げると目の端に文字が見えて叫ぶ。





「ストップ! あれって……番地?」





 私の追っている文字ではなく、星の端っこになにか数字が書いてある。



 フィンは13星45番を通って来るって話してた。星に番地がついてるの本当だったんだ。



 あの星が13-40ならこの近くに13-45があるはず。





「ブリクセン近くの星を回って! 45番を見つける」





 そこからサンタの国に入ったら、近くにいるサンタを捕まえてフィンの居場所を聞けばいい。



 右に並ぶように番地が続くが13-44の隣には星が無い。





「ない! どうして45だけ並んでないのよ!」





 ソリから立ち上がり、目を凝らして辺りの星を見るが45だけが見つからない。



 絶望感に下を向くと、控えめに光る星を見つけブリクセンに近づいてもらう。



 古い星のなのか光も番地の文字も薄いが、確かに13-45と書かれている。





「見つけた! けど……どうやってここを通るの?」





 番地の書かれた星に扉はない。どこをどう見てもただの星。

 困ってる私にブリクセンが鼻をすり寄せ首を振る。



 何かと首を見ると、くたびれたマフラーの下にベルが隠れていた。





「ベル? これを鳴らすの?」





 首を振るブリクセンを見て、とにかく首にかかっているベルを鳴らしてみる。目の前の星が輝きを無くし真っ黒に変わった。





「なにこれ!? 星が死んじゃったの?」





 自分がとんでもないことをしてしまった気がしてへたりこむとブリクセンが真っ黒になった星に向かって突進した。





「ぶ、ぶつかる!!」





 目をギュッとつぶって衝撃に備えるようにソリのふちを掴む。



 冷たいものが頬にあたりゆっくりと目を開けると一面、銀世界に変わっていた。



 後ろを振り返ると、ぶつかると思っていた黒い星から夜空が見えていた。





「トンネルになってたんだ……よかった。それじゃ、ここはサンタの国ってことだよね」





 ソリから恐る恐る下を覗いて言葉を失う。いたるところにツリーが飾られ、煙突のある可愛らしい家が立ち並んでいる。



 その中心にはひときわ大きなツリーがあり、そこから透明な膜が町を覆っていて大きなスノードームのようだ。





「ここにフィンがいる。ブリクセン急いで!」





 ブリクセンは前足を上げてスピードを加速させ、スノードームの中に入ると雪の勢いが弱くなり視界も良くなった。



 でも、どこがフィンの家なのか分からない。他のサンタが沢山いるだろうと思っていたのに、一つのソリも見つけられない。



 よく分からないままブリクセンは中心にある大きなツリーに走っていくが、途中でぴたりと足を止める。





「どうしたの? うっ、うわっ!!」





 急に方向転換して猛スピードで走り出す。




 ――急にどうしちゃったんだろう




 振り落とされないようにしっかりとソリにつかまって止まるのを待つと、少しの衝撃のあと急に目の前が真っ白になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る