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第12話
プレゼントの配達を終え、一人で家に戻る。
暖炉に火を入れて明かりも付けずに寝転んだ。
ポケットに入っていたリストを取り出し、一番最後にチェックの入っていない場所を見てクシャリと握り潰す。
「こんなもん、届けられるかよ」
仕事が完了したことを告げに、じいさんのところにリストを持って行かなければならない。
――なに言われるだろう。嫌だな。
深い深いため息をついて起き上がると、家のドアがノックと同時に開く。
「おーい、フィン帰ってるのか? 今日はずいぶんと早く戻ったじゃないか」
「返事する前に開けるなよじいさん!」
真っ赤な服にでっぷりとしたお腹。立派な白い髭を生やしたサンタ・クロースが冷たい風と雪をつけてドアから入ってきた。
会いたくないと思ってると狙ったようにやって来る。俺は唇を尖らせて体を起こして座る。
「ブリクセンと一緒でも毎年、一番最後に帰ってくるお前がずいぶんと早いじゃないか。配り忘れてるんじゃないか?」
床に転がる握り潰したリストを俺が隠す前に、体に似合わず素早い動きで奪われる。
取り返そうと立ち上がって手を伸ばすが、大きな腹に押し返されてしまった。
じいさんはリストの皺を伸ばして上から順番に確認していく。
そしてリストの最期にチェックされてないものを見つけると険しい顔をして俺を睨む。
「まだ一人残ってるじゃないか! プレゼントは…HO,HO,HO!」
「こんなのリストに入れる方が間違ってるだろ!」
腹を揺らして笑いだすじいさんを今度は俺が睨みつけた。
じいさんは、ひとしきり笑うと髭を撫でながら探るように俺を見る。
「笑顔になれないプレゼントはリストに入れない決まりだ。これは、笑顔を見ることはできないのかい?」
「それは……わかんねえよ……」
いつも行くとビービ―泣いてる小さな女の子。ソリに乗せたら輝くような笑顔を見せて喜んだ。
それが、いつしか少女になってもう大人の女性になろうとしている。
――もしも俺の姿が見えなくなっていたら?
泣いて俺の名前を呼ぶ彼女に触れることも慰めて笑顔にすることも出来ない。
「待ってるんじゃないのかい? 真実を見るのは怖いが、それに目を瞑ってしまっては笑顔もみえないよ」
俺が彼女に言ったこと。成長に目を瞑るなと偉そうに言ったが、俺が怖がってたんだ。
「今から行ってくる。ブリクセン借りるよ」
「それなんだが……誰に呼ばれたのか、ソリを引いて飛び出して行ったんだよ」
「誰だよ! 肝心な時に……」
苛立つ俺の横をフワフワと見慣れた黒い文字が横切って暖炉の上に置いた便箋に着地する。
慌てて便箋の文字を確認した。
『いまから、し……』
いつもと違う書き殴った文字は途中で文章を終えている。
今からなんだろう?し――死ぬ?
「まさか! そんなに思いつめてるわけない……たぶん」
ナナの泣き顔が頭をよぎる。きっと俺を待って今年も泣いてるだろう。姿が見えなくなるとかそれ以前に、ナナと永遠に会えなくなるなんて考えたくもない。
嫌な考えに手に持った便箋が震える。
「大丈夫かフィン? なんの知らせだい?」
「わ、わかんない……とにかく行ってくる!」
開けっ放しのドアから飛び出すと、目の前で雪が盛大に舞い、視界が真っ白になった。
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