第75話

「私は皆さんにも、そして幸くんにもウソをついてこれまで過ごして来ました。」

結希の言葉通りにメモに書いて行く麗香。

その手が小刻みに震えている。

「でも、ここに書いてどうするの?誰にも言わないって言ったじゃない!」と言う麗香に、「いいの!言われた通りにして!」と結希が強い口調で言い捨てる。

麗香はその声に戦(おのの)き、ただ結希の言う通りにするしかなかった。


そして結希は、新聞に載せられていた、あの遺書を麗香に書かせて行く。

結希は、震えながら自分が言う言葉を文字で残して行く麗香を微笑み、見下ろしていた。


「ねぇ…こんな事書いてどうするの?」

後(のち)に遺書として残される文章をメモに書き終え、不安そうにしている麗香の姿に、結希が更に続ける。

結希の怒りはまだ静まらない。

「携帯をその紙の上に置いて。」

結希に言われた通り、麗香がメモの上に携帯を置く。

その麗香の腕を結希はグッと引き上げた。

「痛ッ!何!?」と言う声と同時に、ペンが地面に落ちた音も聞こえた。

麗香は無理矢理、結希に立たせられ、目を白黒させている。

そんな麗香の姿を見て、結希は微笑んだ。

「何でも言う通りにするから。お願い許して!何でもするから。」

泣き付き、必死に頼み込む麗香の肩に手を置き、結希は一気にその体を押した。

「やめて!お願い。何でもするから許して!」

麗香の泣き叫ぶ声に、結希はグッと目を閉じる。

「何でもするんでしょ?次で終りよ!そしたら…死んだら許してあげる!!」

目を開け、麗香にその言葉を吐き捨て、結希は最後の距離を力付くで押して行った。


「嫌!助けて!」

麗香の悲痛な叫び声が、今の結希には快感へと変わってしまう。

結希の力で押された体は、腰の高さ程ある最後の壁を乗り越え、次の瞬間、地上へと風を切り、落とされ、屋上から消えてしまった。


最後に麗香の目に映ったもの。

それは「バイバイ。」と手を振りながら微笑む結希の姿だった。

自分の手によって目の前から今、1つの命が消えた事に、結希は微笑んだ。

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