*麗香の死の真実*
第73話
こんなにも小さな体で大きな何かを抱え、自分の手の中で震えている結希の姿に祥也は言いようのない不安を感じていた。
けれどこのまま結希に荷物を背負わせる訳にはいかない。
「結希…今から結希が言おうとしている事を…俺に話して…結希は大丈夫なのか?結希…壊れちゃわない?俺…結希を守りたいんだ。」
祥也の胸の中で頷き、結希は顔を上げた。
「もう今からじゃ間に合わない。帰るのは明日にしよう。」
結希を椅子に座らせ、テーブルの側に荷物を置く祥也。
外では、何かを予告するように雨が降り出した。
結希の正面の椅子に座り、祥也は大きく息を吸い込み、また大きくため息をついた。
冷たい空気が流れる中で、結希が小さく話し始めた。
あの惨劇(さんげき)を今…。
「あの日ーーー。」
あの日。
幸がデビューをしてから初めてのライブの日。
そのライブに麗香も来ていたあの日。
ライブが終わってから、結希は聞いてしまった。
麗香が携帯で幸の事を話しているのを。
「話題作りの為に幸と仲良くしてただけーーー
このまま付き合うなんて本当に有り得ないーーー
いっその事、消えちゃいたい~ーーー。」
その言葉に『じゃあ、早く消えてよ。』と結希の心が叫んだ。
結希にこの会話を聞かれたのに気付いた麗香は、「サインでも何でもするーー誰にも言わないで!」と必死に頼み込んで来た。
そんな麗香の頼みを振り切り、目眩(めまい)に襲われ、家に逃げるように帰った。
そう思っていた。
けれど真実は…本当の現実は違う。
目眩に襲われた本当の理由、それは、もう1人の結希が目を覚ましたから。
結希の記憶を消す為、目眩と言う手段を自ら選んでいたから。
[もう1人の自分]の間の記憶を、結希は自分で消していた。
自分でも気付かないように。
麗香が最期に見た自分を、今ははっきり覚えている。
まるで悪魔のような、忌(い)まわしい本当の自分の姿を…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます