第71話
「結希が、“ここに幸がいる”って言った時、本当に幸がいるんじゃないかって俺も思ったんだ。だから…試したんだ。結希だけに幸の姿が見えてるのか……それとも、自分を幸だと思ってるのか…試したんだ…。」
結希に背を向け、祥也があの日の事を話し出す。
「あの日…幸に薬を飲ませるように言って、結希に2種類の薬を渡したの覚える?」と聞かれ、結希は思いだし、「うん。」と答えた。
確かに、幸の熱を下げる為、あの日、祥也は結希に2種類のカプセルを渡した。
「あのカプセル…1つはちゃんと解熱剤だった。でも、もう1つは、違うんだ。結希に幸の姿がただ見えてるだけなら結希は飲まない。でも、もし結希が自分を幸だと思ってるなら、結希がその薬を飲むはずだって思って…。だから、解熱剤と一緒に…睡眠薬を渡したんだ……。もし、結希が自分の事を幸だと思ってその薬を飲んだら、そのまま眠る…。俺、試したんだ…。」
「それで私…あの日あのまま…。」
結希はあの日、お粥を食べ終えた幸に祥也から渡された2種類の薬のカプセルを渡し、飲ませた。
そのままベッドに横になる幸に微笑み、部屋から出たと思っていた。
けれど、部屋から出たと思っていただけで、それは、結希が幸から本当の結希の姿に戻り、祥也の前に戻っていただけだったのだ。
自分の分のお粥を食べれず残してしまったのも、幸の姿として、祥也が作ったお粥を食べたからだった。
その後で、そのまま机に凭(もた)れ眠ってしまったのも、祥也に渡されていた睡眠薬を知らずに飲んでしまっていたからだったのだ。
全ての辻褄が、パズルのピースのようにぴったりと合って行く。
結希は小さくため息をつき、うつむいた。
「それで分かったんだ。幸の姿が見えてるんじゃない。結希が幸なんだって…。」
「幸は…もういない…私が…私はずっと独りだったの…。」
メロンパンを分けて食べたあの小さな幸せも、結希が1人でやっていた事だった。
今なら…今の結希には全てが分かる。
覚えている…。
思い出した…。
全てを今…。
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