第69話

「先生…」と祥也はその紙を手に、徳井を見た。

「そこにも書かれているが、夏本さんに関しての情報は漏らしてはならない。あの子に起きた事件は、あまりにも残酷過ぎる。あの子には重過ぎるんだよ。」

徳井はそう言うと、「いいかい。ここに書かれている事が、今分かる全てだ。この事は君の胸だけに留めると約束してくれるね。彼女本人にも、決して君の口から話さないと約束してもらうよ。」と念を押す。

「分かってます。約束します。」と祥也は深く頭を下げた後、徳井から渡された1枚の記述に目を通して行く。


そして、あまりにも残酷な結希に起きた全てを知った。

知ってしまった。


読み終えた祥也の目には、涙が込み上げている。

この時、祥也は決めたのだ。

「結希の側にいる。結希を守る…。」と…。


祥也は結希の膝の上に、その記述が書かれた1枚の紙を置いた。

結希はその紙を手にし、書かれた文字1つ1つを読んで行く。


きっと祥也も、何度も何度も幾日も見たのだろう。

紙はボロボロで、所々に亀裂が入り、強く持ったら破れてしまいそうだ。


「覚…醒…剤…!」

1つの言葉に、結希は紙を握り締め、祥也を見た。

「あぁ。」と頷き、「結希の両親の死の真相は、覚醒剤だったんだ。覚醒剤を常用してたんだ。外国人から売ってもらってたらしい。でもその売人が自殺の2日前に逮捕された。家宅捜索も視野に入れられ、結希の両親が覚醒剤に手を染めてた事が分かるのも時間の問題だと悟ったんだ。」と祥也は結希に話しながら、今まで幸の部屋とされていた部屋に入り、結希の鞄を手に、荷物をまとめ始めている。

「何…してるの?」

「でも、次の日は結希の誕生日だった。その日に死ぬ訳にはいかなかった。だから…結希の誕生日の次の日に自殺したんだ。せめて…次の日に…。」

「死ぬ事なんて…なかったのに…。」

「覚醒剤を止める事なんて2人には出来なかった。だから死を選んだんだ。2人はお互いにお互いの胸をナイフで突き刺した。…その時、リンゴが落ちて血に染まった…そのリンゴのせいで結希は、リンゴが食べれなくなったんだ…自分で忘れていた、思い出したくなかった事件の真相を思い出したくなかったから。でも、今、全てを思い出した。もういいんだ。もう苦しまなくていい。もう全て終わったんだ。2人で帰ろう。元の場所へ…。」

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