第68話

「いつか結希に世界史のテキスト貸りたの覚えてる?」


「うん。」


「その時、見ちゃったんだ。」


「何…を…?」


「テキストの間に、徳井病院の精神科の薬の袋が挟まってて…。」


祥也の言うように、結希は徳井病院の精神科でリンゴアレルギーの薬をもらい、高校に入学するまでは月に1度、カウンセリングを受けていた。


祥也はその徳井病院の薬の袋をその日、偶然見付けてしまったと言う。


「俺、結希の事、ちゃんと守りたくて、その為にきちんと結希の事知りたくて、徳井病院へ行ったんだ。

…結希に黙って…。ごめん。」


祥也は深く結希に頭を下げ謝った。


結希は何も言わず、首を横に振る。


「先生に結希がリンゴを口にして倒れた事を話した。」


徳井病院で聞いた話を祥也が語り出す。


徳井病院の薬の袋を見て、祥也は徳井病院の精神科へ足を運んだ。


「結希が給食で出てたリンゴを食べて倒れたんです。

結希に何があったんですか!?

僕は、結希を守りたいんです!

教えて下さい!」


祥也は薬の袋に書かれていた担当医、徳井信吾(トクイシンゴ)に頼み込んだ。


「家族以外は教えられません。」と言う徳井に、「結希に…家族がいないから…だからこそ守りたくて来たんです」と祥也は更に頼む。


けれど、「守秘義務」と言う言葉で教えてはもらえなかった。


それでも祥也は、幾日も病院に通い続けた。


その中で、結希と親しく話せるようにもなっていた。


何日も何日も通い続け、「僕が結希の家族になります!」と言ったこの日、徳井は何も言わず、1枚の紙を祥也に差し出した。


そこには【夏本結希に関する記述】の見出しに、びっしりと文字が書かれている。

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