第66話

「ママ…パパ…何で?」


力が抜け、結希はその場で動けなくなり、しゃがみ込んだ。


足元には、血に染まったリンゴが落ちている。


リンゴの少し先…。


その場所で、結希の母親と父親が血の海の中に、自らの命を落としたていたのだ。


胸から大量の血が溢れ、母親と父親を冷たくしている。


母親と父親の側に【結希へ】と書かれ二つ折りにされたメモがあるのに気付いた。


血の海へと結希は足を踏み入れ、モメをその手に取る。


【結希へ

こんな悲しく辛い思いをさせてごめんね。

けれど、ママとパパはこれ以上、生きていては行けなくなりました。

生きて、あなたを苦しめるよりも、この道を選ぶことにしました。

あなたは何一つ悪くありません。

ママとパパは世界で一番、結希を愛しています。

それだけは忘れないで下さい。

結希、本当にごめんね。

   

   パパ ママ】


血で湿ったメモを震える手で握り締め、結希は小屋を飛び出した。


「誰が…誰か助…助けて!。誰か助けて!」


やっとの思いで叫び続け、林を走り抜ける。


林を抜け、「助けて!ママとパパが!」と近くの家のドアを叩いた。


「どうしたの!」

その家から出て来た男性の服を掴んだ。


「この向こう…林の中に小屋がある。そこでパパとママが…これ…ーー。」

握り締め、ぐしゃぐしゃになったメモを渡したとたん、結希の記憶が途切れた。


そして次に目を覚ました時には、そんな記憶は消失していたのだ。


【事故】と言う言葉でその記憶は塗り替えられ、忘れてしまっていた。


その記憶を取り戻した今、どうしてリンゴが食べられなかったのかも、どうしてこの小屋に来たのかも、全ての辻褄(つじつま)が合った。

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