第62話
そして、部屋のドアが静かに開き、祥也の前に幸が姿を現した。
その幸の姿に、祥也は両手で顔を覆う。
幸は祥也から離れた所に座り、うつむいている。
「結希は?」と張り詰めた空気の中、声が響いて聞こえた。
沈黙を破ったのは祥也だ。
「部屋で待ってるって。」と目を逸らしたまま幸が小さく答える。
「体調は大丈夫なのか?」
「あぁ。あの時は薬、ありがとう。君のお陰だ。」
その言葉に無言で頷き、祥也は大きく呼吸をした。
「どうして、ここに結希を呼んだんだ…。」
祥也の質問にうつむいたまま、幸は黙り込み、答えようとしない。
「どうして…こんな場所…答えろよ!」
声を荒げ、祥也が問い質す。?
「小さい時に来た事があって。…思い出して来たんだ。ただそれだけだよ…。」
「小さい時…!もうこんな事…止めろよ!」
立ち上がり、祥也は目をの前の机を思いっ切り、両手で叩き付けた。
目を丸くし、見上げている幸の肩を掴む祥也の手が震えている。
「どうしたの?落ち着いて。」と言う幸に、「もう限界なんだ…。もう止めよう…。俺は、元の結希に戻って欲しくて、今日、ここに来た。今日を最後にする。俺がここに来るのも…結希がここに居るのも…お前と居るのも…。元の結希に戻すんだ。戻さなきゃいけないんだーーー。」と祥也は嘆き、鞄の中に手を入れ、手探りで何かを探っている。
「どうして?!結希は僕といれって言ってくれた!結希が選んだ道だ!結希は、僕を選んでくれたんだ!それなのにどうして!」
2人の会話に狭い部屋で1人、小さくなり結希は耳を塞いだ。
今にも張り裂けてしまいそうな気持ちを抑え、結希は狭い部屋の中で震えている。
幸が今までいた部屋で…。
そして祥也はある物を幸の前に突き出した。
ついに幸と結希の全てが壊れ、消えて行く。
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