第56話

どれくらいの時間眠っていたのか分からない。


部屋のドアを叩く音で結希は目を覚ました。

ベッドではまだ熱に苦しみ眠る幸の姿がある。


「結希。結希。」と呼ぶ祥也の声に、結希は慌ててドアを開け部屋を出た。

テーブルの上に一杯買って来た物を置き、「熱は?!」と祥也は結希を見る。

「まだ下がらないみたい。苦しそうなの。」

結希は不安そうに祥也に駆け寄った。

「助けて」と今にも祥也を頼ろうとしている自分に気付き、結希は祥也から離れた位置の椅子に座り、幸の部屋のドアを見つめた。


「何も食べてないんだろう。」

袋の中から買って来たレトルトのお粥をだし、祥也はそのお粥を作り始めている。

「私がやる。」

立ち上がったその瞬間、酷(ひど)い目眩に襲われ、結希はその場に座り込んだ。

「大丈夫か?結希の分のお粥も一緒に作るから、幸と食べろよ。」

祥也はそう言うと、もう1つお粥を取り温めて行く。


数分後、お粥をお椀に入れ、「ほら。幸と食べろよ。」と結希に渡し、「これも、幸に飲ませるんだ。」とカプセルの薬を2種類、祥也が結希に渡す。

「分かった。ありがとう。」

お椀を手に、幸の部屋に結希は入って行く。

その姿をただ祥也は黙って見守った。


「幸。祥也がお粥を作ってくれたの。食べて薬飲んで。」

結希はそっと幸の体を起こすと、体半分に幸の体を凭(もた)れさせ、お椀を手に持った。

ゆっくり祥也の作ったお粥が幸の口に入り、喉を通って行く。

「美味しい。」と微笑む幸の姿に、結希の顔にも笑みが戻る。

ゆっくり時間を掛け、お粥を食べ終えた幸に、「これ飲んでゆっくり休んで。きっと良くなるはずだから。」と水と薬を渡した。

結希から薬を受け取り、それを飲むと、幸は少し疲れたように横になり、「ありがと。ごめんね。心配掛けて。」と謝りゆっくり目を瞑(つぶ)る。

「私の事は気にしないで。じゃあ、ゆっくり休んで。何かあったら呼んでね。」

結希は幸の体に布団を掛け、幸の部屋を出た。

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