第55話

「幸に会わないって約束してくれるなら、ここに来てもいいって。」と言う結希に「幸がそう言ったの?」と祥也はドアを見て少し驚いたように聞き直した。

結希は頷き、「幸には会わないでくれる?」と祥也に念を押す。

「分かった。幸には会わないって約束する。だから、ここに来てもいい?」と祥也は約束し、承諾した結希を見て、「俺、食い物と薬、買ってくるよ。」と立ち上がった。


小屋のドアを開け、祥也は今までなかった自転車の存在に気付く。

「どうしたの?。これ…。」と祥也に聞かれ。スーパーでの出来事を話した。

「じゃあ、俺が返してくる。結希は中で休んでて。…お前も…疲れた顔してる…」

祥也に言われ、結希はただ小さく頷いた。

「じゃあ、この時間ならまだ薬局も開いてると思うから、薬を買ってからスーパーに寄って返してくるよ。待ってて。ちゃんと…水分補給はしろよ。」

そう言い、祥也は自転車に乗り、林の中へと消えて行った。


再び、小屋で幸と2人になった結希はすぐに幸の隣に寄り添う。

「熱、大丈夫?」と幸の額に充てた結希の手をギュッと握り、幸は微笑んだ。

幸の手の冷たさに、結希は深く息を吸い、幸の手を温めるように吹き掛けた。

一瞬、温かくなったものの、幸の手は冷たいままだ。

「ごめんね。幸…こんな思いさせてごめんね。」

結希の涙が幸の冷えたてに落ち、染みて行く。

「泣かないで。辛い思いさせてるのは僕の方だ。結希を振り回してばかりで。」

「ううん。振り回されてなんかない。」

「結希…僕は結希が側にいてくれるだけでいいんだ。他には何もいらない。」

結希にとって、何よりの言葉だ。


幸のベッドの側に座り、ベッドの上に頭を載せ、手を握り合い、結希はゆっくり目を閉じ、いつの間にか穏やかな眠りに就いていた。


幸の冷たい手を握ったまま…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る