第54話

ドアノブを握り、結希が幸の眠る部屋のドアを開け、祥也を中に入れる。


部屋のベッドを見ると「そう…」と祥也は言い、「幸とここにいるの?」と聞いた。

結希は頷き、ベッドに寄り添い「幸とずっと一緒にいたいの。」と答えた。

「幸も…そう思ってるの?」

「‥うん。」

「そう…。結希…話があるんだ。」


祥也は部屋を出て、テーブルの横のイスに座り、結希を呼んだ。

「コーヒー入れるよ。」と結希は前に買ったコーヒーを作り始めた。

熱いコーヒーで冷えた体を温め、「話って何?」と結希が改めて聞く。

「俺もここにいたい。」

祥也の突然の切り出しに、結希はただただ祥也を見る事しか出来ずにいた。


「どうして?」

やっと言葉が出た。

「幸の事はもうどうでもいいんだ。俺は結希とここにいたい。」

祥也の強い気持ちに、結希は混乱したように頭を抱えている。

そんな結希の姿に、「分かった。ずっとはいない。ただ、こうして会いに来るのはいいだろ。」と祥也は妥協(だきょう)した。


その時だ。

「僕なら大丈夫だよ。僕に会わないって言うなら来ても。」とドアの向こうから幸の声が聞こえて来た。

「幸!」

祥也をその場に残し、結希は幸の部屋へ駆け込んだ。

「幸、大丈夫?!水、飲んで!」と結希は幸に水を飲ませる。

「苦しくない?大丈夫?」と心配する結希の姿に、「僕なら大丈夫だから。僕に会わないって言うなら祥也…ここに来てもいいよ。」と幸は言う。

結希は大きく首を横に振る。

幸に、そんな我慢はさせられない。

「僕が会うのは結希だけ。きっと結希の事が心配なんだ。だから会ってあげなよ。もちろん、結希が大丈夫な時だけでいい。祥也も分かってくれるさ。少しだけでも、会ってあげなよ。」

幸の優しい声に、結希は頷いた。

「でも、私が好きなのは、幸だけだから。幸だけだからね。」

幸は微笑み、「僕も。」と結希の頬を撫でた。

「戻って。」

幸に言われ、結希は祥也の待つ部屋へと戻り、水を飲んだ。

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