第52話

次の日の朝、先に目を覚ました結希は幸の異変に気付いた。

「どうしたの?。苦しいの?」

目の前に苦しそうに息を切らし、ぐったりしている幸がいる。

幸の額に手を当て、すぐに熱がある事を確かめた。

「待ってて!氷…氷買って来るから!」

幸の体に布団を掛け、結希は財布だけを持ち、小屋を出た。


小屋を飛び出し、林の中を結希は必死で走った。

林を抜けて町に出るまで、結構な時間が掛かる。

木と木の間、足場の悪い道を、転びそうになりながらも走り続けた。


走り続けてどのぐらいだろうか。

縺(もつ)れ、今にも転びそうな足取りのまま、結希はこの間のスーパーへと入って行く。


氷の入った袋を3つと、ペットボトルの水を4本抱え、レジへと運んだ。

「急いで下さい」と息を切らす結希の姿に、スーパーの店員はレジを打つ手を早めてくれた。

「1700円です。」

「おつりはいいです。」

結希はカウンターに2000円を置き、氷と水の入った袋を胸に抱える。

「大丈夫ですか?」と結希の姿に店員は思わず声を掛けた。

「急いでるんです。」

「自転車!」

店員はそう言うと、スーパーの外へと行き、1台の自転車を結希の前へ持って来た。

「使って下さい。」と言う店員に、結希は小さく首を振る。

そんな結希から袋を取り上げ、カゴの中に袋を入れると、強引気味に「急いでるんでしょ?早く使って下さい。」と店員は自転車を借そうとしている。

「でも…返しに来れないかも知れないんです。」と結希はうつむく。

「いいですよ。俺んち、近いし、バイクもあるし。そんな事より、大丈夫ですか?」

店員に優しく言われ、結希は店員の好意に甘え、自転車を借りる事にした。

「返せたらでいいですから。気を付けて帰って下さい。」

店員の声を背に、結希は苦しみ待つ幸の元へと急いで戻って行く。


自転車のお陰で、早く小屋へ帰る事が出来た。

「幸!。大丈夫?」と結希の声が外で響いて聞こえた。

小屋に入り、幸の部屋のドタを開ける。

幸は熱で苦しみ汗だくになっていた。

結希はすぐに幸の汗を拭き、着替えさせ、買って来た氷で頭を冷やし、水を飲ませた。

「ありがとう。」と小さく微笑む幸の横で、結希も走ってボ<ロボロの体を休めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る