第50話

自分の住む街に戻ってから数日後、結希は幸と出会う前の生活パターンへと戻して行った。

それも全て、幸の元へ帰る為。


結希は祥也に「もう大丈夫だから。」と言い、「幸の事は消し去った。」と祥也に思わせている。

そんな事を知らず、自分の前で笑っている結希の姿に祥也は安心し始めていた。


この日、いつものように登校して来た結希に、晴比が明るく声を掛けて来た。

「結希!今日、時間ある?」

晴比のいつもの元気な声に、結希は振り返る。

「久々に由加里と3人でカラオケに行こう!」と晴比が笑顔で誘う。

「晴比、お願いがあるの。」と結希は晴比の手を掴み、そのまま誰もいない屋上へと晴比を連れ走って行った。


結希の尋常じゃない姿に「どうしたの?。結希…」と晴比の顔が不安に変わる。

「私…戻ろうと思うの。晴比…今日、私と一緒にいるって事にして欲しい!きっと私の姿が消えたら、祥也は晴比の所にも連絡すると思う。だから祥也から電話が掛かって来たら…今は出られないけど、近くにいるって祥也に言って欲しいの!お願い!」

「でも!すぐにバレちゃうよ!戻るってどこに戻るの?…どこへ行っちゃうの?…。」

結希に携帯を手渡され、戸惑いながら晴比は首を横に振る。

「すぐにバレちゃうのは分かってる!でも、行かなきゃ駄目なの!」

「行くって…どこへ行くの?」

「晴比お願い。私からの最後のお願い!晴比、行かせて!」

結希の携帯をギュッと手の中に掴み、晴比が強く結希を見た。

「分かった。なるべく長く祥也を引き止める。早く行って!」

「晴比…ごめんね…ありがとう。」


晴比はいつもの笑顔で大きく頷くと、「頑張ってね!」と結希の背中を押した。

晴比に背中を押され、結希はそのまま前へと走り出した。


『もう戻れない。戻らない。』

その言葉を胸に、結希は幸の元へと一歩ずつ近付いて行く。

最後の時間まで幸の側にいると結希は今、決意した。


『もう絶対に離れない。』

そう強く心の中で叫び、走って行く。

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