第49話

「座れよ。」

祥也の声に、結希はいつも座っている場所に座った。

目の前のテーブルの上が、誰かに荒らされているのに気付き、結希は、ハッと祥也を見た。

「どうして勝手に部屋に入るような事したの?」結希は無意識に祥也を睨(にら)んでいた。

祥也にこんな目を向けたのは初めてだ。


「いくら携帯に連絡しても繋がらないし、学校にも登校してないって言うから。大家に頼んで開けてもらうのは当然の行動だろ!誰だって連絡が取れなかったらこうするだろ!お前こそ、何で黙っていなくなったりするんだよ!」

ついつい、祥也の声も怒鳴り声に変わる。

「大きな声出さないで!」と結希は両手で耳を塞いだ。

「それに…どうしてこんな手紙が届くんだよ!」

そう言うと同時に、そのテーブルに、祥也は幸からの手紙を叩き付けた。

「やめて!」と結希が手紙を胸に抱えると、祥也は震えた手で結希の肩を掴んだ。

怒りで震えているのか、悲しみで震えているのか、分からない。

ただ、祥也の手は震えている。

「どうして…あんな所に行ったんだ。」

小さく祥也が問うのに、「逢えるから…。」とだけ答え、結希は目を伏せた。

「もう…あそこには行かないで欲しい…。」

結希の肩から手を外し、祥也が切実に願うように言う。

「…分かった。もう…行かない…。」

そんな祥也の姿を真っすぐ見つめ、結希はそう答えた。

「本当?本当にもう行かない?」

「うん。行かない。祥也に心配はもう掛けないから。」

安心したように祥也は頷き、「もう離れたくないんだ。」と結希を強く抱きしめた。

「ごめんね。」と結希は全てをその日と事に託し、祥也の胸に顔を埋めた。


幸を守る為、その言葉だけを祥也に残す。

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