第46話

数日分の食料と、缶詰などの保存食を買えるだけカゴに入れ、レジへと向かい、会計を済ませた。

そして、両手に一杯の袋を持ち、幸の待つ林の中へと帰って行く。


「ただいま。」とドアを開け、結希は小屋に入ると、そのままキッチンへと入って行った。

「おかえり。」と荷物を片付けるのを手伝い、幸は結希に微笑んでいる。

結希は幸に水を差し出し、「喉、渇いたでしょ?。飲んで。」と言う。

「ありがとう。」と幸は受け取り、少しだけ水を口にした。

「すぐに作るね。」と結希はキッチンに立ち、食事の準備を始めた。


『幸の為に料理してるんだ…。』

そう思うと、結希の目からボロボロと涙が零れ落ちて行く。

「どうしたの?。大丈夫?」

結希の涙に慌てて幸が駆け寄り、心配そうにその肩を支える。

「大丈夫。」

「ここにいる事…もしかして辛い?」

結希は大きく首を振り、「違う。ここにいれる事が嬉しいの。」と幸を見た。

「ここにいれる事が嬉しい?」

「そう。あの日…幸が麗香と付き合ってるって発表した時…もう幸には二度と逢えないんだって思ったの。ただのファンにならなくちゃって思った…。」

「そう…だったんだ…。ごめん。」

「でも、今はこうして幸と一緒にいる。嘘みたいで嬉しくて」

幸は強く結希を引き寄せ、きつく抱き締めた。

幸のぬくもりと匂いが結希に移って行く。

『もう離れない!』

2人の胸にその一言が響いている。


「作らなきゃ。」

涙を両手で拭い、結希がまた幸の為に料理を作り始めた。


『これからこの小さな家で2人だけの時間が流れて行く。』

そう思っていた2人に、最後の悲劇が訪れようとしている。

その事をまだ知らず、2人は今、笑っている。

限られた時間を必死で掴もうと、笑い合い支え合っている。


もうすぐ来る別れの悲劇を知らずに…。

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