第41話

幸が記者会見をし、芸能界を引退してしまってから1週間が過ぎようとしている。

幸と離れてから結希は、学校へもどこへも行かず、家の中に引きこもっている。


誰にも会いたくない。

誰にも自分の姿を見せたくない。

そんな結希の元へやって来たのは、やっぱり祥也だ。


「結希、いるんだろ!開けろよ!話しをしよう。」

開かないドアを叩きながら祥也が中にいる結希に呼び掛ける。

けれど結希は、動く事も返答する事もしない。

ただ祥也の声に耳を塞ぎ、小さく身を丸めた。


「いつでも側にいるから。」と言ってくれる祥也の声が、時に重く苦しくなる。


「いくら待っても幸はもう戻って来ないんだよ。もう忘れろよ。お前が大丈夫になるまで、俺、側にいるから。」

祥也の声に苛立ち、結希はドアを強く開け、「もう放っておいて!」と祥也の体を突いた。

「結希!」

その声と同時に、祥也が結希の頬を強く叩く。

叩かれた頬を抑える結希に、「もう十分頑張ったって…」と祥也は言い、小さな結希の体を抱き寄せ包んだ。

忘れかけていた人の温もりと祥也の優しい胸に涙が止まらず、結希は声を出して泣き崩れた。


一頻(ひとしき)り泣いた後、「祥也…」と掠れた声でやっと結希が顔を上げた。

祥也のトレーナーの胸は、結希の涙でグショグショに濡れている。


「ごめん。いつも迷惑ばっか…困らせてばっか…」

うつむく結希の頭を撫で、「大丈夫だから。その為の俺でしょ?結希の事、俺、これからもずっと支えて行くから。俺なら大丈夫だから。」と祥也も少し微笑んだ。


久しぶりに見た結希のその笑顔に、祥也が安堵のため息をつく。


けれど、この笑顔もこの時間も長くは続かない。

そして終わりへと、その道に続いて行く…。


もう元には戻せない道へと…。

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