第40話

「私…ずっと待ってたんだよ。幸に…どうしてま逢いたくて。」

結希の言葉に、幸の表情が曇る。


「どうして辞めちゃうの?…」

「…。」

「本当に…歌…辞めちゃうの?」

「あぁ。もういいんだ…もう続けて行けない…。」

「私は、幸に助けられたんだよ!」

結希はあの日の路上ライブで買ったCDを手に、幸の側ヘ行き、そのCDを見せる。

「あの日、死のうと思ってあの場所を歩いてた。その時、幸の歌声が聞こえて来て、このCDの曲を歌ってるのを見て、死ぬ事を忘れられたの。やめようってなったの。幸の歌が私の命を助けてくれたの。今だって、幸を必要としてる人がいるよ!だから辞めるなんて言わないで。今ならまだ間に合うよ!ファンだって」

「ファンの為に歌う事はもう出来ない…。もう違うんだ…前とは全く…違うんだ…」

「そんな…私…幸のこの歌で生きようって思ったのに…そんな事言わないでよ…。」

結希が大切に握り締めているCDを奪い、「こんなの、もういいんだよ!」と幸は思いきりそのCDわ壁に投げつけた。

CDのケースが音を立て割れ、中のディスクが床へと転がり落ちる。


その光景に、結希は幸の頬を思わず叩いてしまった。

涙が止まらず、呼吸の仕方さえも分からなくなる。


「俺も…俺も死にたい…」

幸の言葉に、結希の希望が全て消し去られて行く。

生きる希望をくれたはずの幸が今、目の前でその希望を放棄しようとしている。


『死にたいなんて言わないで…もう苦しまないで…』


頭の中を幸の吐いた「死にたい」の一言が支配して行く。


目眩の中、結希は立ち上がり、幸の肩を掴んだ。


「ごめん。こんな思いにさせて…でも死にたいんだ…。もう頑張れない…。」

結希の胸で幸が涙に濡れた声で言う。

もうその声に希望の欠片さえ見付からず、結希は幸の部屋を飛び出した。


涙で前が滲む暗がりの中、結希は走った。

何かを断ち切るかのようにひたすら。


フラつく頭から、「死にたい」と言った幸の顔が離れない。

暗がりの中、結希の涙は落ち、虚しく消されて行く。

『もう…どうでもいい…』

この心の叫びと同時に、結希の全てが壊れてしまった。

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