第38話
幸の突然の引退宣言に、会場は静まり返っている。
それは嵐の前の静けさだった。
『引退ってどう言う事?』
結希がテレビの前で落胆する。
そんな中、幸に記者からの質問が凄まじく飛び交い始めた。
「どう言う事ですか?」
「今日ここを最後にって、どうしてですか?」
「責任感からですか?」
「本当に引退してしまうんですか?」
帯びただしいフラッシュの中、「僕の夢は…もう叶えられません。」と幸が答えた。
「叶えられないって、幸さんの夢とは何ですか?それは、引退と観劇があるのでしょうか?」
「続ける意思は無いんですか?」
「ファンへの思いは?!」
会場はざわつき、混乱が起こっているようだ。
「歌手になるのが僕の夢でした。歌手になり、多くの方々に僕の歌を聞いてもらえ、とても幸せでした。そして、そんな中、麗香さんと出逢い、僕の夢は、愛する麗香さんを幸せにする事に変わりました。けれど、僕の前にも、どこを探しても、麗香さんはいないんです。幸せにするはずの人を、僕の気持ちのせいで死なせてしまった。もう僕の夢は叶えられません。このまま、中途半端な気持ちで皆の前に立てません。僕も限界です。これ以上、傷付けたくありません。僕は今日、引退します。」
マイクを置き、頭を深く下げ、幸は引退へと続くドアを開け、会場から、そしてファンの前から姿を消した。
もうテレビで幸を見る事は出来ない。
『大丈夫。』
その声はもう支えてはくれない。
結希は泣く事も忘れ、棚からあの日、路上ライブで買った幸のCDを取り、家を飛び出していた。
『私が幸の夢になるから…。もう大丈夫って言わないで。助けてって言って。』
遠い道則を結希は一心に走り、幸のアパートの前へと駆けた。
幸にもう1度、逢いたくて…。
どうしても幸に逢いたかった…。
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