*引退発表*

第37話

それから3日後のこの日、結希は手に汗を握り、テレビの前に座っている。

幸が麗香の自殺後初めて、マスコミの前に“記者会見”と言う形で姿を現すと言うからだ。


『大丈夫。』

そんな根拠のない言葉だけが、今の結希を支えている。


そして遂に、記者会見の場に、幸がその姿を現した。

幸は前よりも痩せているように見えた。

結希が見つめる画面の中、幸がマイクを握り、フラッシュを浴びている。

その中で、幸が口を開いた。

「今日は、お集まり頂きありがとうございます。皆様の前に顔を出すのが遅くなり、本当に申し訳なく思っています。申し訳ありません。」

そう言い、幸はカメラの前で深く頭を下げ、まず謝罪をした。


フラッシュの嵐の中、「麗香さんの死の事ですが、どう感じていますか!」と1人の記者が幸に質問を投げ付ける。

幸は頭を上げ、マイクを強く握り答えた。

「とてもショックで、自分が苦しめて、あんな結果になってしまった事を今でも深く反省し、これからもその罪は背負って行こうと思っています。」

幸の言葉に記者も静まり返る。


「幸さんはこれからどうするんですか?」

「芸能活動は?」

「大丈夫なんですか?」

「まだ麗香さんの事を愛しているんですか?」


そんな声の中、「聞いて下さい。」と幸が落ち着き、大きく息を吸い、1台のカメラを真っすぐ見つめた。

そのカメラの向こうに、結希がいる。


そして、幸の決意が今、幸の口から切り出されてしまう。

まるで冗談を言ってるかのように。


「僕は今日、ここを最後に、芸能界を引退します。」


世の中の時間が一瞬凍りつき止まったように感じた。

結希の心臓も心も全てが壊れてしまいそうに揺れ、激しく動いている。


『大丈夫。』

その言葉と幸が脆(もろ)くも壊れてしまった。

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