*信じる道*

第36話

次の日から結希は傷を隠し、学校生活中心の毎日を送るようにしていた。

祥也と過ごし時間も、ライブへ行ってからと言うもの少なくなっていた。


今日会うのも、祥也にメールで誘われたからで、結希からの誘いではない。


待ち合わせ場所のファミレスに入ると、そこには既に祥也の姿が待っていた。

「ごめん。遅くなって。」と祥也の前に座る結希を、祥也が不審そうに見ている。

そんな祥也に気付き、「何?何か変?」と結希は慌てて腕を動かして見せる。

『祥也に背中の傷がバレたら大変だ。』と結希は、背中の傷を隠し動かした。


「いつもと違わない?」

祥也はそう言い、結希を指差し、「制服。」と制服を指摘した。

「あっ!コレ?制服にジュースこぼしちゃって、シミになっちゃったから1年の時に着てた古いやつを着てるの。スゴイね。気付くなんて。さすが祥也!」

必死に嘘を付き、結希は祥也に笑って見せる。


「そう…それで?」

「えっ?…何が?」

「幸のライブの日、麗香があんな死に方して…幸もそれから1週間が経つのに、雑誌にも、マスコミにも顔出さなくて…結希も何も言わないし…。結希は…大丈夫なの?」


結希は頷いた。

「大丈夫だってば。」と。


祥也の言うように、あの日から幸は取材も受けず、どこにも顔を出さないでいる。


結希もその事は気になっていた。

けれど、信じていた。

「大丈夫だから。」と言った幸の言葉を。


「私、待つ事にしたの。幸が自分から動き出すのを。信じてるから。」

結希のその言葉に「そう。」と祥也は微笑み、「無理すんなよ。」と結希を励ました。


祥也はいつも側で結希を支える道を選んだ。

そんな祥也に背中を押され、結希は幸を待つ道を選んだ。

幸がまた戻って来るのを信じ、目の前の道へと歩いている。


けれど、幸はその道から1人、離脱する道を選んだのだ。

結希の『大丈夫』とは裏腹に。


今…。

幸は独りの道を選んだ。

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