第33話

「わぁぁあぁあ!。」と両手で頭を抱え、グシャグシャと紙を掻き毟る幸の手を抑え、「大丈夫。大丈夫だから!」と結希は幸を落ち着かせようと必死に抑えた。

「結希ちゃん!。ゴメン...俺...俺のせいで...」

幸の言葉に結希が顔を上げる。


『どうにかしないと。』と差し延べる幸の手を握り「覚えててくれたんだ。」と結希は微笑み、幸を見た。

「えっ…?」

「私の名前…覚えててくれたんだね。」

結希の体に痛みが襲い、結希はまた幸の足元にうずくまる。


「じっとしてて。」

幸はそう言うと、結希の体を支え、次の瞬間、体に食い込んだハサミを握り、一気に結希の体から引き抜いた。

結希は唇を噛み締め、今にも叫び出したい声をグッと呑み殺した。

「制服、脱いで。早く血を止めなきゃ。」

急に平常心を保ち、幸がタオルと消毒液を手に言って来た。

「でも…」と戸惑う結希を真っすぐ見つめ、「これ以上、失いたくないんだ。」と幸が言うと、結希は頷き、幸に背を向け制服を脱いだ。

その時初めて幸は、結希が戸惑った理由に気付いた。

目の前で、下着姿で結希が背中を向けている。

その背中には自分が付けてしまった傷があり、今も血を流している。


「大丈夫?」と結希の声に、幸は結希の背中に触れ、手当てを始めた。

消毒液を含ませたタオルで強く抑え、血を拭うのを何度も繰り返し、10分後、ようやく血が止まり、幸は背中にガーゼを当てテープで止め処置をした。

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