第32話

「これ、飲んで。」と幸は冷蔵庫から缶コーヒーを取り、結希に渡し、ベッドに座る。

結希はコーヒーの缶を握ったまま、何から話していいのか、黙り込んでしまっていた。

そんな結希の姿に「田丸に言われて来たの?」と幸が低いトーンで切り出す。

結希は幸の横に駆け、「違う。」と大きく否定をした。

「じゃあどうやって?」

「麗香の事…私も今朝知って…気付いたら教室を飛び出して走り出してた。どこに行ったらいいかなんて分からなかったけど、どうしても幸に逢いたくて。幸の事務所の会社へ行ったの。そしたらそこに田丸さんが来て、私の事に気付いてここまで車で連れて来てくれたの。私、幸にどうしても逢いたかったの!」

「どうして!」

幸は頭を両手で抱え込んだ。

「幸…」とその幸の体を結希は強く抱き締めた。

「大丈夫だから!」と言う結希を突き払い、「何がだよ!」と幸が声を荒げる。

結希は幸に突かれ、壁に背中を打ち付け咳込んだ。

その前で幸は取り乱し、家の中の物を手当たり次第に投げ、破壊しようとしている。

「止めて!」と結希が幸の体に飛び付いたその時、結希の体に痛みが走り、そのままその場に結希はうずくまった。


幸の足元で声を殺しうずくまり苦しんでいる結希の背中にハサミが刺さっているのが見え、幸は思わず後退り、ベッドへと倒れ込んだ。

結希の背中に刺さったハサミの先から血が滲み、制服を赤く染められて行く。

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