第31話

「…幸…!」

結希は立ち上がりドアノブを持ち、そのまま引いてみた。

ドアがゆっくりと開いて行く。


『想いが届いた…。』

結希が田丸の方へ視線を送る。

田丸が頷くのを見ると、結希も大きく頷き、ドアを開け、部屋の中へと入った。

ドアを閉め、「入ったよ。」と優しく小さく呼び掛ける。

その瞬間、奥に幸の姿が見えたかと思うと、幸はそのまま結希の胸へと飛び込んで来た。

幸の体がガタガタと小刻みに震えている。

「大丈夫。大丈夫だから落ち着いて。」

結希は幸を抱き締めた。


『やっと逢えたね。』

幸を強く抱き締めたら、涙が込み上げて来た。

その涙に結希の体も震え始めたのに気付き、その顔を幸は見上げ「大丈夫?」と弱い声で聞いた。

「うん。」

必死に手で涙を止めようとしている結希を、幸は抱き寄せた。

「私が励まされてどうするの?」

「えっ?」

「私が幸を支えに来たのに。私が支えられてる。」

結希は幸の胸から顔を出し、「幸、大丈夫?」とそっと幸の頬に指で触れた。

幸の頬が涙で濡れている。


「汚いけど、入って。」

幸は結希を部屋の中へと連れて行った。

幸の部屋の中にはギターが置かれ、その周りには紙くずやカップラーメンの残りなどでグチャグチャに汚れていた。


その中で、割れたテレビを結希は見てしまった。

新聞もビリビリに破かれ、ゴミ箱の側に散乱している。

全て麗香の死・自殺の結果がこの部屋に表されているようだった。

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