第30話

そして、¨219¨のドアを“コン コン”と叩いた。

今にも張り裂けそうな胸を抑え、返答を待つ。

けれど、待ってもドアが開く気配はしない。

結希は田丸の待つ車に戻り、幸が出て来ない事を伝えた。

すると田丸は、結希に自分の携帯を渡し、「リダイアルで幸に掛けてみて。中で鳴ってるのが聞こえるかも知れない。鳴ってたら中にいるって確率が高いでしょ?そしたら、ドアを叩いて幸に開けてもらうように言うんだ。君なら出来るって信じてるから。」と結希の背中を押した。


結希はもう1度、幸の部屋の前に立ち、田丸から受け取った携帯をギュっと強く握り、リダイヤルから【幸】と書かれたアドレスのボタンを押した。

¨呼び出し中¨と画面に表示されるのを確認すると、結希はドアに耳を当て部屋の中から携帯の着信音が聞こえて来るかを確かめる。

すると、ドアの向こうから小さく携帯の鳴る音が聞こえて来たような気がした。

けれど、その音はすぐに止まってしまい、もう1度掛けてみようと結希は携帯を見た。

その瞬間、結希は自分の目を疑った。

田丸の携帯の画面に【通話中__10秒】と表示されていたのだ。

結希が慌てて携帯を耳に当てると、幸は黙ったまま様子を伺ってるようだった。

沈黙の空気を破るように携帯を強く握り締め、「幸...」と結希が声を出す。

それでも幸は何も言わなかった。

けれど電話を切ろうともしない。


『幸は助けを求めてる!』

結希は携帯を耳に当てながら、ドアに両手をつけ、幸に呼び掛けた。


「幸!そのままでもいいから聞いて!私、幸を助けたいの。幸を独りにしたくない。今すごく辛いのは分かる。独りになりたいのも分かる。でも独りじゃ駄目な時だってあるでしょ?私、幸の側にいたいの!お願い。ここを開けて…。」

結希の声が涙で震え、そのまま結希はその場に座り込んだ。


けれど諦めず、「独りぼっちは嫌だよ…。独りにならないで…。お願い。開けて。幸...幸...。」と結希は声を枯らし呼び続けた。


『もう限界だな。あの子も。』

結希の壊れてしまいそうな姿に、田丸は諦めようと踏み出した。


その時だ!。

¨カチャッ¨と言う音が聞こえ、微かにドアが開いたのだ。

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