第29話
「どこに向かってるんですか?」と結希が聞くと、「幸のアパート。」と男性は答えた。
幸はデビューし、ブレイクし、売れてからもアパートで住む事を選んだと言う。
「あなたは…事のマネージャーさんですか?」
「あっ。うん。そう。デビューした時からマネージャーをやってる田丸って言います。君の話は、デビューした時から聞いてた。君の買ってくれたCDを今でも大切に持ってて、君があの日CD代でくれた500円を幸はお守りにしてる。君には辛いかも知れないけど、今の幸を支えてやって欲しいんだ。」
そう田丸に言われ、結希は両手で顔を覆い、声を殺し泣いた。
自分が思ってる以上に、幸は自分の事を覚えていてくれた。
「大丈夫?。」
田丸に心配され、「ハイ。」と涙を拭い顔を上げた。
数十分、車を走らせ、アパートに着くと、田丸は車を止め、「行こうか。」とシートベルトを外し、ドアを開けた。
結希も同じようにシートベルトを外し、ドアを開け車を下りると、目の前のアパートを見上げ、大きく息を吸い込んだ。
「行きましょうか。」と結希が言うと、「結希ちゃん、1人で行って見てくれないか。僕が一緒だと開けてくれないかも知れないし。」と田丸は結希に頼んだ。
『幸を助けてやってくれ!』
その強い気持ちが、表情からも伝わって来る。
「分かりました。」と結希は決心し、大きく頷いて見せた。
結希は「大丈夫。」と自分に言い聞かせ、田丸に教えてもらった¨219¨の玄関の前に立ち、大きく深呼吸をする。
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