第26話

「今日、ライブに来てくれって言われて、一応行って、今終わった所なの。ファンの子達にやっぱり見つかっちゃって、手振りまくってさぁ。本当にどうしよう。私、話題作りの為に幸と仲良くしてただけで、もうそろそろバイバイしたいよ。でも、世間は公認の仲とかになってて、本当にどうしよう。このまま付き合うなんて本当に有り得ない。あぁ、いっその事消えちゃいたい~。」


結希の心と手が、怒りで震えた。

『じゃあ、早く消えてよ。』

麗香の言葉に震える手を握り締め、結希はそう強く思った。

“思った”と言うより“願った”と言う方が適切かも知れない。


「うん。今日はこれから仕事があるから帰るって言ったから今日はこれで終わり。でも、このままだと別れられる日は遠いなぁ。本当に消えたい。とにかく今日は帰れるからさ。……うん。それじゃね。またね、バイバイ。」

麗香が携帯をポケットに入れ、路地から出て来る。

その時、結希と目が合い、麗香はその場で立ち止まった。

「もしかして…今の話し、聞いてたの?」

麗香にそう聞かれ、結希は怒りで震える手を握ったまま、ゆっくり頷いて見せる。

「お願い。サインでも何でもするわ。だから誰にも言わないで!」

麗香が両手を顔の前で合わせ、必死に頼み込んで来る。

「誰にも言わないから。」

結希はそう言い、麗香をその場に残し歩き出す。

次の瞬間、あまりの怒りからか、酷い目眩に襲われ、結希はしゃがみ込んだ。

「大丈夫?!」と支えようとする麗香の手を振り払い、ふらつきながら立ち上がると、結希は酷い目眩の中、歩き出した。


「お願いだから!」

しつこい麗香の頼み声が目眩と共に結希を襲い苦しめる。

結希は再度立ち止まり、目をグッと暝(つぶ)った。

麗香の声が微かに聞こえた気がする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る