第25話
ライブは終始、歓声と拍手、そして涙に包まれ進んで行き、そしてそのステージの幕を下ろした。
会場を出てロビーへ行くと、そこでは幸のライブグッズ販売がされていた。
次々にファンが並び、あらゆる種類のグッズをセットで買って行く。
あの日、1人も立ち止まらなかったのがまるで嘘のような人気ぶりだ。
「週ごとに違う限定カラーペン!今週はブラックでーす!1本600円でーす!」
店員の声に、やっと結希もグッズの前へと並んだ。
『ただのファンに戻るんだ。買って行かなくちゃ。』
そんな思いが、結希を行動へと移らせる。
「晴比にも買って行こう。」
晴比が幸のライブに来るのは来週で、その時には、このブラックのペンは売っていない。
結希は、晴比の分のペンも買って帰る事にした。
「ありがとうございます。袋、別々に入れさせて頂きます!」
店員は満面の笑みで言い、手際良くペンをそれぞれ袋へと入れ、「お待たせ致しました。」と1つの紙袋に入れ、結希に手渡した。
結希はペンの入った紙袋を手に、ロビーの自動ドアを出て、さっきまでライブをやっていた会場を見上げた。
「はぁ」と大きなためいきをつく。
右を見れば、グッズを買い終えたファンが、幸の出待ちをするべく並んで待っている。
『本当なら私も…あんな風に気軽に待ってたのかな?』
そう思いながら、「帰ろう…。」と結希は会場とそのファンに背を向け、1歩を出した。
その時だ!
聞いた事のある声が耳に刺さるように聞こえて来て、結希は思わず足を止めた。
「幸なんだけど、マジでどうしよう。私、付き合ってるつもりないんだよねぇ。」
結希の耳を刺したのは、紛れもなく、あの麗香の声だ!。
麗香は、会場を出た先にある誰も通らないような細く暗い路地でしゃがみ、会場に背を向け、携帯で友人なのか、誰かと話している。
他のファンはグッズや出待ちの列に夢中になり、そんな麗香の声には誰1人として気付いていないようだ。
結希だけが麗香の声に刺され、足を止めたのだ。
麗香に気付かれないよう、結希は麗香のいる暗く細い路上の角に立ち、壁に沿って隠れ、麗香の携帯での会話に耳を向けた。
麗香は、そんな結希の気配にも気付かず話しを続ける。
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