第23話
晴比からチケットをもらってから1週間…。
遂に幸のライブの日がやって来た。
会場には大勢のファンが入り、デビューライブとは比べものにならない熱気を帯びている。
『すごい人気…』
そう思いながら会場を見渡す結希の目に、見たくない光景が飛び込んで来てしまった。
会場に用意されているゲスト席に、あの林麗香が座っているのを見付けてしまったのだ。
『麗香!』
麗香の存在に気付いたその瞬間、言いようのないざわつきが結希を支配して行く。
同じように麗香の姿に気付いたのか、会場には「麗香ちゃん!」と麗香を呼ぶ声が響き始めた。
その声に麗香は立ち上がり、会場全体に手を振っている。
その姿に結希は目を堅く閉じた。
『あの子から、取り返す!』
その言葉を強く心に、結希が目を開ける。
そして会場の明かりが消え、ステージの幕がゆっくり開いて行く。
一気に音楽が響き渡る。
その瞬間、一斉に歓声が会場を包んだ。
ステージの真ん中で、スポットライトを浴びた幸の姿が現れ、いよいよライブが始まった。
路上で1人で歌っていた頃の幸とはまるで違う幸の姿がステージに上がっている。
あの日、目の前で歌っていたのとはまるで違う幸の姿。
『本当に遠い人になっちゃったんだ…。』
そう思うと涙が溢れ、幸の姿が滲み見えなくなってしまった。
ライブは順調に進むのに、自分だけが取り残されているようだ。
曲が止み、トークに入る幸。
「今日は来てくれてありがとう。」
その声に、会場がまた歓声に包まれる。
そして幸が、ゆっくりファンに向けて話し出す。
「デビューして、約半年でこのライブをやる事が決まって、今日で7ヶ月弱なんだけど、今日は本当に嬉しくて、ここに来てくれた皆に本当に感謝しています。僕はデビューする前、ストリートライブをやってたんです。見た事ある人いますか?良かったら手、挙げてもらえます?」
その声に、会場にいる何十人かが手を挙げている。
結希も、自殺をしようとし、思い留まったあの日の事を思い出していた。
あの日、あの場所で幸の歌声が無かったら、ここに自分の姿は無い。
けれど、結希は手を挙げられなかった。
何故だか分からない。
だけど、その手を挙げる事が出来なかった。
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