*悪魔のチケット*

第22話

幸のライブを1週間後に控えたこの日、何の状況も変わらない中、結希は教室でただただ授業を受けていた。


全ての授業を終え、帰ろうと席を立った結希を「待って!」と晴比が止める。

「ん?。どうしたの?。」と立ち止まる結希を席に座らせた晴比はどこかバツが悪そうに目を合わせようとしない。

「どうかしたの?。」

「あっ…うん。」

なかなか話を切り出せずにモジモジしていた晴比だったが、一気に覚悟を決めたかのように切り出して来た。

「すごく余計なお世話だって事は十分、分かってる。またケンカしちゃうかも知れないって思ったけど、やっぱり、結希には行って欲しいって思って。」

そう言うと晴比は1枚のチケットを結希の机の上に置いた。

「晴比…これ…」

幸のライブのチケットだった。

結希の胸に忘れていた動揺が蘇る。


「私が行く日とは別の日なんだけど。」

「でも!」

「聞いて!」

晴比が結希の言葉を止める。

「結希にチケットを渡すかどうか、チケットが当選してから私も悩んだの。幸の事、結希もショックだったの知ってるし、そのせいで私達だってケンカしちゃって。それでまたこんな事したらケンカどころじゃなくなるかも知れないって思った…。けど…結希は…結希には行って欲しいって気持ちのが強かったの。どんなに辛くても、やっぱり結希は行くべきなんじゃないかな?。だって、幸の事、一番好きなのは結希なんだもん!。ねぇ、行きなよ!。」

晴比の目から大粒の涙が落ち、チケットを濡らして行く。


「晴比…」

「幸を…取り返すぐらい、結希は幸の事が好きなんでしょ?」

晴比のその言葉に胸の動揺は止まり、胸の鼓動が高まって行く。


「私…行く。取り返せないかも知れないけど…逃げたくない!」


晴比の涙で濡れたチケットを胸に、結希は幸のライブへ行く事を決めた。


『もう逃げない!逃げたくない。』

そう胸の中で強く誓った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る