第5話

歌い終え、少年がギターの玄から指を外す。


「大丈夫?」と少年はティッシュを手にした。


「えっ?」

結希は少年にティッシュを差し出された。


その時、自分が泣いている事に初めて気付いた。


「あっ!大丈夫です。ごめんなさい。」と結希はティッシュを受け取り、涙を拭くと、少年の前に並べられたCDを1枚手にした。


「今の歌、入ってますか?」と聞く。


「えっ!?あっ、入ってます。」

少年が言うと結希は立ち上がり、「1枚下さい。」と500円を少年に手渡した。


「ありがとう。初めてだよ。買ってくれた人。」

少年は嬉しそうに500円を受け取ると、「そうだ!コレも良かったら。」と1枚のライブチケットを結希に手渡した。


「チケット?」

「そう。今度の土曜日、デビューを懸けたオーディションライブがあるんだ。

そこで合格すればデビューできるんだけど…。

そのライブのチケット…

もし良かったら貰って下さい。」


「ありがとう。絶対に行くから、頑張って下さい。」

「ありがとう。じゃあ、僕もそろそろ帰ろっかな?じゃあ、土曜日に。」



「オーディションライブ…っと。」

結希は自宅に戻り、机に向かった。

結希は手帳に予定を書き込んだ。


その時、結希は重要な事を思い出した。


「私…。生きてる…。

死ぬつもりだったのに…。」


そう。

結希は【獲物を消す】と言う事を忘れ、それどころか、手帳に未来の予定まで書き込んでしまっている。


そんな自分に、結希は思わず笑ってしまった。


「合格するといいなぁ…。あれ?名前…聞いてなかった。」

結希は買ったCDを手に取り、CDに書いてないかと名前を探す。


「屋月幸…。」


この時から、結希の生活の中心は少年、屋月幸(やづきこう)となって行く。

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