第36話 いいよ

「……いいよ」

 とある日曜日の俺の部屋。

 俺の作ったエプロンと似合いすぎている制服に身を包んだ可愛すぎていとおしすぎる亜理紗がん~、と手を広げてそう言って……あ、亜理紗?


「……だから、いいよ。その……今日の私は、日向からのプレゼントで嬉しくて、幸せでぽかぽかの亜理紗ちゃんだから。だから、えっと……今度は、私の恩返しの番です」


「あ、亜理紗……」


「えへへ、嬉しい気持ちは、ちゃんとお裾分けしなきゃだから。私ひー君にいつももらってばかりだから、ひー君からいっぱいもらってるから……だ、だから、その、私からも、プレゼント、です……なるか、わかんないけど、いいよ、ひー君」

 恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、口をもごもごさせながら。

 勇気を振り絞るようなか細い声で、でもどこか期待しているようなそんな甘い声で。


 ……こんなん、我慢する方が悪いでしょ。

「ありがとう、亜理紗! 大好きだよ、亜理紗!」

 腕を広げる亜理紗に駆け寄り、俺は思いっきり亜理紗を抱きしめる。


 そんな俺に、亜理紗は恥ずかしそうにはにかみながら

「も、もうひー君がっつきすぎだよ、ちょっと痛いしくすぐったいよ」


「あ、ご、ごめん亜理紗、つい」


「ううん、いいよ。嬉しいし、温かいから……えへへ、ひー君に包まれてる。ひー君がくれたエプロンに、本物のひー君が抱きしめてくれて……えへへ、すっごい嬉しくて、幸せだ今の私」


「亜理紗……亜理紗!」

 蕩ける様な声でそう言う亜理紗の細い身体をさらに強く抱きしめると、亜理紗も俺に身体を預けるようにさらに寄り添ってくる。


「えへへ、ひー君……またわたしばっかり幸せもらってないかな、これ? ひー君にぎゅーってしてもらえて、だ、大好きって言ってもらえて……えへへ、また私だけ、ひー君に幸せもらってないかな」


「ううん、俺も幸せだから。大好きな人が俺のプレゼントを受けとってくれて、喜んでくれて。大好きな格好に着替えてくれて、こうやって……俺の方こそ、亜理紗に幸せもらいすぎだよ。今日だけじゃない、いつも。大好きな亜理紗に、こっちこそ幸せいっぱいもらってるんだから」


「えへへ、嬉しい、えへへ……も、もうひー君……えへへ、嬉しいなぁ、本当に。今絶対、私世界一幸せだ、その……大好きな人に包まれて、こんなに嬉しくて、幸せなこと言ってもらえてるんだもん……ありがと、ひー君」

 そう耳元でささやく亜理紗の熱い呼吸を胸元で感じながら。


 真っ赤に染まった耳や早くなる互いの心臓を感じながら。

「俺も今、世界一幸せだと思う。こうやって大好きな亜理紗と一緒に居れるんだから」


「えへへ、ひー君……それじゃ、私たちお互いに幸せ同士だ、世界一の……えへへ、ぬへへ……えへへ……んっ」

 真っ赤に染まって、とろとろに蕩け切った顔を俺の胸にごしごししていた亜理紗が、ふわっと顔を上げ、僕の方を見上げる。


 目を瞑って、緩み切ったほほを何とか持ち上げて、唇をこちらに向けた状態で。

「……あ、亜理紗さん?」


「んっ、ひー君……えへへ、も、もっと幸せに、なってみない?」

 ……これってそう言う事、だよな?

 この表情、この感じ……これってそう言う事だよな?


「ひー、ひー君、その……えへへ、ひー君?」

 ……据え膳食わぬは男の恥だ。

 あの恥ずかしがり屋の亜理紗がしてくれてるんだ、俺の大好きな亜理紗が……こんなの据え膳じゃなくても食べなきゃダメだろ。


「んっ……えへへ、ひー君」

 少しだけ抱きしめていた腕を緩めて、亜理紗の顔をまっすぐ見て。

 ドキドキと過去最高レベルでお互いに鳴り響く心音に耐えながら。


「えへへ、ひー君の息、すっごい顔にかかる……えへへ、くすぐったいけど、温かくて、好き」



「あ、亜理紗……」


「ひー君、お顔も真っ赤赤だ。えへへ、見たことないくらい真っ赤……ぬへへ、なんかひー君、可愛いね」


「あ、亜理紗、その……ちょっと黙ってて」


「ひゃ!? ひゃ、ひゃい……うへぇ」

 そしてゆっくりと顔を近づけ、お互い初めての

「おーーーー!!!!! あの位置から差し切った、これがダービー馬じゃぁ!!!!!!!」


『ひゃっ!!!???』

 ……突然下の部屋から聞こえてきた父さんの叫び声に情けない声をあげながらお互いに身体を離してしまう。


 ちょっとどういうタイミングだよ、時間的には確かにその時間だけど!

 なんちゅうタイミングで叫んでくれとんじゃ、今すっごく大事で、ちゃんと覚悟決めた、これからの俺たちにとって大事すぎるタイミング……何してんねん、ほんまに! 身体熱すぎる、なんかもう……あっついなぁ、もう!!!


「へ、へやぁ……やばっ、腰……はぅぅぅ……」

 色々な要因で熱くなった身体を亜理紗の方に向けると、へにょっと座り込みながら湯気の出る耳まで真っ赤な顔を隠しながらふにゃふにゃ揺れている。


「だだだ、大丈夫、亜理紗?」


「だ、大丈夫、じゃないかも……あのね、腰、抜けちゃった。あのね、すっごく嬉しくて、幸せで、そのまま、したかったけど……ちょっと、その、一回冷静になると、色々ぽわ~ってなっちゃって、嬉しくて、幸せなんだけど……えへへ、身体ふにゃふにゃで、熱すぎて立てない」


「あ、亜理紗……お、俺も」


「待って、待って、言わないで……ぬへへ、本当に幸せなんだよ。でもね、その……幸せすぎるから、まだ言わないでほしいかも。これ以上、言われると身体熱すぎてぷかぷか飛んでっちゃうから……今だって、ひー君の顔、見れないもん」

 ぎりぎり形を保った、そんなとろとろぽわぽわの甘い声でそんな事を言ってくれる亜理紗。


 まったくもう、まったく……ほんともう、可愛すぎるって、愛おしすぎるって亜理紗さん! 

 ほんともうさぁ……やっぱり俺が、一番幸せもらってる。本当に世界一の幸せ者です、亜理紗と一緒に居れて。本当に、俺が一番嬉しいよ。


「ふふっ、そっか。じゃあ俺は亜理紗が落ち着くまで部屋に」


「ま、待って!」

 とりあえず、色々興奮とか身体のほてりとかぽわぽわ亜理紗とか……そんな全部幸せだけど、治さないといけないものを治すため部屋に戻ろうとした俺の背中を、亜理紗の細い指がぎゅっとつかむ。


「あ、亜理紗?」


「あ、あの……そばには、居てほしい、です。そ、その……この幸せな空気、ひー君と一緒ならもっともっと感じられるから……顔見れなくても、ぎゅーってしなくても、いてくれるだけで、嬉しくて、幸せだから……えへへ、そばにだけ、居てほしいです」

 背中をつかむ力は弱いのに、強くて。

 真っ赤な顔は隠しているのに、今亜理紗がどんな表情をしているのか全部わかって。


「……ふふっ、亜理紗はわがままだな」


「えへへ、わがままです、幸せだもん……わがままな亜理紗は、嫌い?」


「ううん、大好き」


「えへへ、嬉しい……わ、私も、その……えへへ、幸せ、です……ぬへへ」

 そうやってへにょへにょと蕩け切った笑顔で笑う亜理紗を隣に感じながら。

 幸せな空気の流れる部屋で、真っ赤で火照った身体を、心をしばらく二人で抱きしめ続けた。



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雨降りの放課後、大好きなねこ系美少女を拾った。離れ離れは嫌だから一緒に住むことにした。 爛々 @akibasuzune624

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