第35話 プレゼントとお返し
「……こんなことしてる場合じゃなかったんだ。いや、してる場合ではあったんだけど……最重要事項があった!!!」
近ちゃん……先輩とラーメンを食べに行って、それからぐーちゃん先輩とたまたま会って、別れて……なんであの二人ところかまわずイチャイチャするんだよ、さっきTPOがどうとか話したばっかりじゃん、もう!
近ちゃん先輩に向ける感情がどれかわからなくなる、それに俺と亜理紗もあんな風に……いやいや、大丈夫大丈夫。
あんだけ仲いいのはすごくうらやましいけど、あんなバカップルにはならないはず、大丈夫! 大丈夫、いちゃつくのは部屋の中か二人の時だけ……ってこんな話でもないんだって!
「……亜理紗、喜んでくれるかな?」
カバンの中に大事にしまってあるお手製のエプロン。
亜理紗につけてもらいたくて頑張って作った俺の自作エプロン……普通に気持ち悪いのはわかってるけど、でも期待してしまう。
亜理紗が俺の作ったエプロンをつけてくれて、喜んでくれて。
それで料理をしてくれたり、色々……そういう事を期待して、気持ちが昂るなっていう方が難しいと思う。
「ふぅ……んっ!」
そんな妄想とかをしながら歩いていると、すぐに家の前につく。
ぱんぱんとほっぺを叩いて気合とか諸々を入れて、鍵を開け家に入る。
「ただいま」
「あ、ひー君おかえり! 遅かった、どこ行ってたの?」
家に帰るとすぐにリビングでテレビを見ていたであろう亜理紗がふわふわ可愛い足取りでお迎えしてくれる。本当に可愛くて嬉しい光景。
「ふふっ、ちょっとね。ごめんね、亜理紗」
「べ、別に謝らなくてもいいよ。お休みの日なのにひー君と一緒に居れなくて少し寂しかっただけだから……あ、む~ん。む~ん」
ごしょごしょもにょもにょ話していた亜理紗が急にほっぺをむ~ん、と膨らませる。
「どうしたの、亜理紗?」
「む~ん、あ、いや、その……か、帰るときは、ちゃんとインターホン押してほしいかも。しっかりピンポーンってしてほしいかも」
「なんで?」
「だって、だって、その……ひー君の事はちゃんとお出迎えしたいから! ひー君の事、ちゃんとお帰り、って言って笑顔でお出迎えしたいから……あ、わ、私がいるときだけだよ! その、私がいるときはちゃんとインターホン押してひー君にすぐにおかえりって言いたい、から……お願い、ひー君」
……やばいな、ちょっと可愛すぎるな、幸せすぎるな。
大好きな女の子にこんな幸せなこと言ってもらえて、上目遣いで可愛くお願いされて、それに……ちょっと幸せが過ぎるな。
これにエプロンプレゼントして喜んでもらえたら……俺、どうなっちゃうんだろ。
「ひ、ひー君? 聞いてる、ひー君?」
「うん、聞いてるよ。わかった、これからはちゃんとインターホン押す。俺も亜理紗の顔、一番に見たいから」
「う、うん! わ、私もひー君の顔、一番に見たいから。えへへ、ひー君に一番に会いたい……えへへ」
そう言って幸せそうに蕩けた笑顔を浮かべる。
ずっとこの笑顔見たいたい、こんな可愛い笑顔を……よし!
「あ、亜理紗! ちょ、ちょっといい?」
「えへへ、ひー君……え、あ、うん! ど、どうしたの、ひー君?」
「いや、その……渡したいものがあるんだけど、ちょっと部屋に来てもらってもいい?」
「え、渡したいもの? そ、それってプレゼント?」
少しだけ困惑しながらも、それでも期待のまなざしを向けながらこてんと首をかしげて俺の方を見る。
そんな新しい可愛いしぐさにまたまたドキッとしながら、
「うん、亜理紗にプレゼント。来てくれる?」
「えへへ、プレゼント……うん、もちろん」
そう言って差し出された手を取って、自作のエプロンを渡すために自分の部屋に向かった。
☆
「そ、それでひー君は私に、何をくれるのかな?」
俺のベッドに座りながら、少し染まったほっぺをふにゃふにゃさせて、わくわく期待した表情で俺の方を見つめる亜理紗。
そんな亜理紗に「ちょっと待って」と言ってエプロンを取り出すためにカバンを開く。
「あ、もしかして、今日遅かったのって……えへへ、私のプレゼント、買ってきてくれてたの?」
「あ、それはその……ちょっとだけ、違うっていうか?」
「え、違うの? え、じゃあ、それ……ん~?」
あ、亜理紗がちょっと困ってる……よし、ここは勢いだ!
なんか渡すときの言葉とか考えてたけど、もう忘れた、ここは勢いで渡す!
「じゃ、じゃあなんだろう? ん~?」
「あ、亜理紗! こ、これ! あ、その……いつもありがと、亜理紗!」
ん~、と首をかしげていた亜理紗に、むぎゅっと押し付けるようにエプロンの入った紙袋を手渡す。
「ふにゃ!? え、あ……これぇ?」
「う、うん! あ、開けてみて」
「うん! そ、それじゃあ……おー、エプロン! こ、これひー君が作ってくれたの!? ひー君が私のために作ってくれたの!?」
「も、もちろん! 亜理紗のため!!!」
「わ、私のため……あ、ありがとうひー君! 嬉しい、本当に嬉しい……えへへ、ひー君が私のために、こんな可愛いエプロンを……えへへ、私のため、私だけのひー君のプレゼント、えへへへ……ぬへへ、温かいな、なんか、えへへ」
「う、うん! そ、その、亜理紗に似合うと思って、着てもらいたくて、亜理紗に俺のエプロンしてもらいたくて作った……えへへ」
……なんか予想以上に気持ち悪い返事が出ちゃったな。
いや、でもしょうがないじゃん、その……亜理紗も予想以上に喜んでくれたんだもん。
目をキラキラ輝かせて、ぴょんぴょんと嬉しそうにはねたと思えば、ぎゅーっとエプロンを抱きしめながら、幸せそうにそれを噛みしめる……こんな嬉しい反応されたら、俺だって思ってること言うの、我慢できなくなる。
こんな可愛くて嬉しい反応されたら、我慢するのが無理って話だ。
「ぬへへ、ひー君ったら……でも本当に嬉しい、ありがと。こんないいものもらえるなんて私は本当に、幸せ者だな。大好きな人から、こんなに幸せを……んっ、本当に私は、幸せ者だよ、ひー君」
「あ、亜理紗……俺もだよ、俺もそんなに亜理紗に喜んでもらえたなら幸せだ。ありがと、亜理紗」
「も、もう何でひー君が……あ、そうだ。これ、つけていい? ひー君が作ってくれたエプロン、つけていいですか?」
「も、もちろん! て、ていうかその、つけてるところ、早く見たい、なんて!」
あ、やば、また口が滑った!
何かもう……全然、抑えが聞いてない、今。
嬉しすぎて、大好きな人が自分の作ったものを……嬉しすぎて、気持ちが止められてない。
「えへへ、そんな言われなくてもすぐつけるよ、ひー君が私のために作ってくれたものなんだから……あ、ちょ、ちょっと待って! もっといいこと、思いついた」
ほくほくにやけ顔の亜理紗がぴこんと何かを思いついたように顔をキラキラさせると、ぎゅーっと握りしめていたエプロンを片手に持ち替え、俺の腕をつかむ。
「あ、亜理紗さん?」
「えへへ、もっとひー君に喜んでもらえること思いついた……私も嬉しいし、ひー君にももっと、嬉しくなってもらえること」
蕩けた笑顔でそう言った亜理紗が僕の部屋を飛び出し自分の部屋の前へ。
「ひー君はここで待ってて……えへへ、絶対好き、だから」
ぎゅーっともう一度エプロンを握りしめた亜理紗が、ほむほむしながら部屋の中に入る。
何だろう、俺の好きって。
まさか、あれか……いや、でも俺は亜理紗には言ったことない、というか言えるわけないと言うか新とか翔太とかそう言う男内の……
「いいよ、ひー君……えへへ、開けてください、ひー君。あ、ひー君のエプロン、すっごく可愛くて好きだよ」
そんな妄想に思考を奪われていると部屋の中から亜理紗の声が聞こえる。
「わ、わかった……開けるよ!」
「うん!」
ワクワクドキドキしながら、期待と好きに胸を膨らませて部屋の扉を勢いよく開ける。
「じゃじゃ~ん! えへへ、ひー君好きでしょ、これ!」
嬉しそうな声でそう言いながら部屋の真ん中で俺のエプロンをつけた亜理紗がくるっと一回転する。
その姿は紛れもなく、俺の大好きな……制服エプロン。
よくご存じで、大好きです制服エプロン。可愛すぎます、大好きです!!!
「あ、ひー君顔真っ赤になってる、やっぱり好きなんだ! えへへ、調理実習の時とか、いつも見てたもんね!」
「うん、大好き……本当に大好き。しかもそれを大好きな人が自分の作ったエプロンで……うん、似合ってる。大好きだよ、亜理紗」
「もう、ひー君ったらほめすぎだよ~! でも私も、大好き。このエプロンも、ひー君も……えへへ、なんちゃって! えへへ、でもすっごく嬉しいな、えへ」
自分の言ったことに気づいたのか、急にすでに赤かった顔をさらに真っ赤に染めて恥ずかしそうに舌をちょろっと出す亜理紗。
そんな可愛い姿を見たら、大好きな格好でそんな可愛い笑顔を浮かべる亜理紗を見たら、その、あの……
「えへへ、ひー君……ひー君?」
「あ、いや、その……」
「……いいよ」
!?
☆☆☆
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