第26話 朝の儀式と夏風邪
《ちょっとだけ亜理紗視点》
「ひー君、ひー君。起きてひー君朝だよ、学校だよ、お味噌汁作ったよ。だから起きてひー君」
「むにゃむにゃ……えへへ、ありさぁ~……むへへ」
「にゃにゃ。どんな夢見てるのひー君……私の夢見てるのは嬉しいけど早く起きてよ、ひー君」
そう呼びかけながらひー君の身体をゆさゆさと揺らすけど、ひー君は全く起きる気配なく私の名前を呼びながら虚空をなでなで撫でていて……ひー君は夢の中で私に何してるのかな?
もしかしてまたえっちな……ダメダメ、まだ早いです、私たちには早いよ!
「ひ、ひー君変な夢見てないで起きて! 本当に起きないとおばさんぷんぷんだよ!」
「ぬへへ、ありさ~……ふへへ」
私が呼びかけてもひー君はやっぱり蕩けた笑顔でぬへへとなでなでを続けて。
私の名前を呼びながら楽しそうに笑っていて。
……私はまだひー君と付き合って、なんて言えてないけど。
恥ずかしいし、ほわほわするし、直接好きって言ったらどうなっちゃうか、何しちゃうか……え、えっちな事とかが止まらなくなりそうでまだ言えてないけど。
でもやっぱり好きだし、大好きだし、誰にも取られたくないし。
だから、その……私はひー君といちゃいちゃしたいから、まだだけど触れ合ってはいたいから、だから、だから……!
「ひ、ひー君、その……起きなかったらお布団入っちゃうよ? お布団入ってひー君に、えっと……い、イタズラしちゃうよ? にゃーにゃーしちゃうよ?」
「えへへ、亜理紗~」
「……ひー君、私ね、ひー君と……痛っ!?」
眠っている時だったら大丈夫、そう思ってひー君のお布団でゴソゴソしようと入ろうとした時、突然振り上げたひー君の頭と私の頭がごちんする。
途端に頭に走る鈍い痛み、そして襲い掛かる羞恥心。
「痛っ……あ、亜理紗おはよう、起こしてくれてありがと」
ぶつかった本人も頭をさすさすしながら、呑気な声でお礼を言ってくれる……ごめんね、ひー君、私のせいです!
「お、おはようひー君! 下で待ってるね!」
「うん、待ってて。すぐ降りるから」
「待ってる! それじゃあ!」
爽やかに微笑んでくれるひー君に背を向けて、ずんずんと部屋を出る。
ごめんね、ひー君……私は勇気が出なくて、ダメダメでぽやぽやで、へにょへにょな女の子です……でもいちゃいちゃはしたいです。ひー君と一緒にいたいから、ひー君の事……大好きだから。
大好きだから、イチャイチャはしたいです……本当はひー君に、ぎゅーって包まれたいです。
「……にしても、頭痛いな。どこかぶつけたかな?」
この台座か? ならもっと痛そうだけど……まあいいか! 早く準備しよー!
☆
《日向視点》
「よーい、亜理紗おはよう……ってこれ家でも言ったな」
「うん、そうだよひー君……でもおはよう。学校、行こっか!」
ニヤッと笑って小さく手を振る亜理紗といつもの場所で待ち合わせ、今日も今日とて世間話とかをしながら学校に登校。
「そうだ、亜理紗。今日朝起きたらおでこのあたりが痛かったんだけど、亜理紗なんか知らない?」
「え!? な、何それ、私知らない! 何も知らない!」
「そうだよな、知らないよな……やっぱり寝てる間にどっかぶつけたのかなぁー」
「そうだよ、そうに違いない! そ、それよりこの前ね……」
「あ、ごめん。なんか電話来た。ちょっと待ってて」
何か話を始めようとした亜理紗の声に被せるようにスマホからLIMEの着信音が鳴る。
電話の主は美樹。どうしたんだろう、こんな朝っぱらから。
「おー、美樹どうした?」
「ひなた君?」
電話越しから聞こえてくれるのはしんどそうなとろんとした美樹の声。
これはアレだ、風邪ひいてるときの声だ。咳も出てるし、結構な重症やもしれん。
「美樹、風邪ひいたの?」
「せいかーい。だから今日私部活行けない。それを日向君に言わないと、って思って……ごほごほ」
「そうか、連絡ありがとう。夏風邪は長引くって言うし、お大事にしろよ……そうだ、お見舞い何かいるか? ゼリーとかアクエリとかそう言うのいる?」
「ううん、いらない。お母さんが色々してくれるし、それに日向君に風邪移ったら大変だし。だから日向君は今日は来なくていいよ。でも心配してくれてありがと」
「そっか、了解。それじゃあお大事にな、美樹。今日はしっかり休むんだぞ、楽になっても遊んだりしたらダメだからな……ふふっ、にしても美樹も大人になったよな」
「……どう言う事?」
「だってちょっと前までは風邪ひいたら俺から離れなかったのに。美樹のお母さんが引きはがそうとしても俺の事……」
「ああ、ダメダメ、そんな話ダメ! そ、それは中学くらいまでの話で、今は……ごほごほ」
「ごめんごめん、ちょっと思い出して。ごめんな、しんどいよな。ゆっくり休むんだぞ、美樹。早く治して、早く学校で会おうな」
「も、もう……うん、ありがと日向君。えへへ、じゃあね……ごほごほ」
美樹のしんどそうな咳とともに電話が切れる。
この前は翔太も風邪ひいてたし、最近流行ってんのかね?
取りあえず、そんな状況なら俺も亜理紗も用心しないと……って痛っ!?
「……亜理紗? どうしたの?」
「……別に」
急にわき腹に痛みを感じたので振り返ると、ほっぺを膨らませた亜理紗が俺のわき腹をぐにゅっとつねっていて……どうしたの亜理紗?
「だから何にもないって言ってるし。なんもないし!」
「だったら離してよ。わき腹つねられるの、結構痛いんだけど」
「……むー」
そう言ってもそっぽを向いた亜理紗のつねる手は止まらずに、むしろちょっと強くなって。
もう、本当にどうしたのさ……まさか。
「ふふっ、もしかして亜理紗嫉妬してる? 俺が亜理紗と話してるときに急に電話で話し始めたたから嫉妬してる? 怒ってる?」
「……別に嫉妬してないし、怒ってないし。急にひー君が美樹ちゃんと楽しそうに話し出したことなんて私怒ってないし。美樹ちゃん風邪だから心配だし、私は怒ってないし、嫉妬もしてないし。お見舞い行っても関係ないし、なんか去年いちゃいちゃしてても今の私には関係ないし!」
つーんとそっぽを向いたまま、少し震えるような声でそう言って。
赤くなったほっぺにわき腹をつねる指の力は一層強くなって……もう、やっぱり怒ってるじゃん、嫉妬してるじゃん! 可愛いなぁ、もう!
「亜理紗、ごめん! ふふっ、ごめんね、亜理紗」
「別に怒ってないって言ってるし。嫉妬もしてないし、別に何とも思ってないし。ひー君と美樹ちゃんが仲いいのは知ってるし、だから何も思ってないし」
「ふふっ、怒ってるじゃん、亜理紗! ホントごめんね、亜理紗……俺が好きなのは亜理紗だけだよ。だから心配しないでね、いつも君が一番だよ、あーちゃん」
「……耳元コショコショで、またそう言う事……もう、ひー君ここお外! ここお外だからそう言う事しちゃダメなの! ほら、もう早く学校行くよ! 遅れたら先生怒られるし、早く行くよ!」
「はーい、わかりました、あーちゃん!」
「だからそれダメ! それ禁止なの!」
俺から手を離した亜理紗はやっぱりちょっと機嫌悪そうに、でもさっきとは少し違う軽いステップで歩き出す。
ふふっ、今日は天気もいいし、放課後はお出かけもありかもしれないな……いや、その前にエプロン仕上げるか。
「ちょっとひー君、何足止めてるの? 早く行かないとホントに遅刻するよ、一緒に行くよ!」
「あ、ごめんごめん……あ、そうだ亜理紗、さっき何話そうとしてたの? ほら、電話始める前」
「ん、何だったけ……えへへ、忘れちゃった」
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