第25話 膝枕

「でも、膝枕はしてもらおうかな?」

 昼休みの芝生の上。

 なんかいい雰囲気になってたけど、そこは忘れてないよ!


「えへへ……え? そ、それはさっき大丈夫って……」


「芝生で寝るの、確かにごわごわして制服変な感じするし? それに亜理紗が誘ってくれたし? せっかくだからしてもらおうかなー、って。膝枕は男の憧れだし?」


「あ、憧れって……確かに誘ってのは誘ったけど、でも……ひ、ひー君のえっち」


「えっちで結構! だって大好きな亜理紗の事だもん、そりゃえっちにもなりますや! という事で亜理紗、膝枕お願いして良いですか?」


「うにゃー……そ、そんなこと言われたら、その私だって……わ、わかりました。私が蒔いた種だもんね! あのそのえっと、あ、亜理紗のお膝、ひー君のために準備しておきましたから……だからひー君、おいで。亜理紗のお膝、召し上がれ」

 相変わらず恥ずかしそうに真っ赤な顔をそっぽに向けながら。

 でもどこか楽しそうに顔を緩ませて、健康的なふとももを叩いてそう言って。


「……亜理紗その言い方はちょっと、その……えっちすぎる」


「う、うるさい、気にするな! そ、そんなこと言うんだったらしてあげないよ!」


「あ、ごめん、ごめん! そ、それじゃあ失礼しまして……」


「う、うん。あ、こっち向いちゃダメだよ、パンツ見えちゃうかもだから。可愛いのじゃないから」


「わ、わかってるよ! そ、それじゃあ本当に失礼して……ほわっ」

 少し、いやかなり緊張しながら亜理紗のふとももに頭をのせる。

 ムチっと柔らかくて、ふわふわで気持ちいい感覚とポカポカするような温かさ、それに身体の力とかが一気に抜けるような脱力感や安心感身体中に一瞬で広がって……ああ、これはすごいです! 


「ど、どうですか、ひー君? あ、亜理紗のふとももは気持ちいいですか~、なんて……ぷしゅー」


「うん、すごく気持ちいい! 柔らくてむちふわで温かくてほわほわで……うまく言えないけどすごく安心する。亜理紗のふともも凄く良い」


「言い方がなんか……そ、それじゃあさっきのやり返し! さっきやられたことひー君にやり返す……えい! えいえい!」

 微妙に文脈が合わない言い方で亜理紗は俺の方に小さい手を伸ばしてきて。

 そしてそのまま俺の頭をわしゃわしゃと……!?


「あ、亜理紗?」


「さ、さっきのやり返し! さっきひー君に頭ナデナデされたからそのやり返し……ど、どうだ! きき気持ちいいか!」


「うん、気持ちいい。さっきより安心するし、もっと亜理紗と近づけた気がする。これ好き」


「そ、そっか……えへへ、良かった。その、私も……すごくすごいです」

 そう言って俺の頭をわしゃわしゃ撫で続けてくれる。

 頭撫でて貰ったら、もっと亜理紗と近づいたというか、受け入れてもらえたというか……とにかくそんな嬉しい気分になって、さらに身体がポカポカして。


「……ふふっ、こうしてるとまた嬉しさがこみ上げちゃうな。こうやってひー君と一緒にいて、色々できるとまた嬉しくなっちゃう」


「……亜理紗?」


「ひー君があの時私の事拾ってくれなかったら、今こうやってひー君と一緒にいれなかっただろうし。一人ぼっちで泣いてたかもだし……だから嬉しいんだ。当たり前のような時間だけど、でもやっぱりこういう時間が一番嬉しくて幸せだな、って」

 優しく俺の頭を撫でながら。

 聖母のように透き通った、安心する声でそう言って。


 ……俺だって今幸せだよ。

 こうやって亜理紗と一緒にいて、亜理紗のお弁当食べて膝枕までしてもらえて……大好きな亜理紗とこれだけ色々できるんだもん。

 俺だって今が一番嬉しくて幸せな時間だよ、ありがとう亜理紗。

 亜理紗がいてくれて本当に俺は嬉しいよ。


「も、もうひー君すぐそんな事……そんなこと言われたら……むゆっ……ぷしゅー」

 静かな可愛い奇声とともに俺の頭を撫でていた優しい感触がどこかへ行く。


「え~、亜理紗? もうちょっと撫でて欲しいな~?」


「だ、ダメ。もうダメにゃ」


「なんで~? もうちょっとお願い、あーちゃん?」


「むー、ダメ。ダメったらダメだから……ダメにゃー」


「もう、そんなこと言わないで……ふふふっ、あーちゃん?」

 小さい声で囁く亜理紗の顔を見ようとコロンと転がる。


「うえ、ダメ、い、今見ちゃダメ、顔見ちゃダメ!」


「……!」

 ダメ! という声とともに両手で隠されたぷしゅーと湯気が出ている顔の隙間から完熟トマトのような真っ赤な顔にだらしなく緩んで蕩けた表情がチラリと見えて……!


「……亜理紗、顔真っ赤。それにその顔すごく……」


「も、もう見ちゃダメって言ったのに……そ、そんな事言ったらひー君だった顔真っ赤だもん! 耳まで真っ赤赤だもん!」


「え、嘘!?」


「ほんとだもん! ひー君だって顔真っ赤だもん、ゆでだこさんだもん!」

 そう言われて自分の顔をぴとっと触る……熱っ!?

 自分でも驚くくらいに熱を強く帯びていて、それは俺の顔も真っ赤でゆであがっていることを証明していて、だからその……!


「あ、なんだか眠気吹っ飛んじゃったな! 目が冴えちゃったな! あ、ありがとう亜理紗、膝枕気持ちよかった!」


「う、うん、それなら良かった! よ、良かった……にゃーん」

 ……ものすごく恥ずかしくなって、亜理紗の膝からパンと飛び起きる。


「……」


「……」

 そしてすささと距離を取ってしばしのクールタイムという名の気まずい時間。

 別に照れてること自体は恥ずかしがっても意味ないと思うし、それは良いんだけど……でもなんか! なんか!



「……あ、あのねひー君」


「な、何? どうした亜理紗?」

 しばらくの無言のクールタイムで少し気分も落ち着きかけたころ、亜理紗がポツリとそう呟く。

 な、何でしょうか亜理紗さん?


「あのね、ひー君、その……さっきの膝枕私も幸せだったよ。ひー君と一緒にいれて、ひー君ともっと一緒になれた気がして……だからすごく嬉しかった」


「……ふふっ、亜理紗、それさっきも言ってたよ」


「そうかもだけど、大事なことだもん……だからね、私ね……もっとひー君と、そのいちゃいちゃしたい、かもです……ぷしゅー」


「……亜理紗」

 消えてしまいそうな小さな声で。

 羞恥に我慢できなくなったように震える口元が、紅潮した顔がゆらゆらと揺れる瞳が、華奢な身体が……全部全部可愛くて愛おしくて、大好きで。


「あの、その、ひー君と……」


「亜理紗こっち向いて。俺の方むいて?」


「うえっ……ふいっ」

 くるっと俺の方を向く亜理紗の顔を見つめる……ふふっ、やっぱり可愛くて愛おしくて守ってあげたい、守るんだ。


「亜理紗、ギュッってしていい?」


「ふえっ!? ぎゅー? 牛さん?」


「牛さんじゃないよ、ギュッって、ハグしていい、亜理紗の事抱きしめていいかな?」


「ぷえっ、そ、それは……ダメ、です。ここ学校だし、お外だし、そのぎゅーってハグは心も体もぽやぽやするので……だ、ダメです」


「ふふっ、そっか……家の中ならいい?」


「そ、それは言葉のあやや……よ、要検討です……ぴやっ!」

 そう言った亜理紗に恥ずかしそうにポンと突き飛ばされる。

 流石にまだ早かったか、なんて思っていると亜理紗がするすると俺のそばにもう一度身体を寄せてくる。


「……ひー君、これ」

 そう言って渡してくるのはイヤホンの片耳、つけろとジェスチャーを送ってきて。


「……ハグとかそう言うのはまだアレだけど、でもいちゃいちゃしたいかもなのは本当だから……だからこれくらいのいちゃいちゃから始めませんか?」

 もう片方のイヤホンをつけた耳につけ、とろんとした目で俺を見上げて。

 ふにふにと身体を密着させ、コテンと肩に頭をのせてそう言ってきて……もちろん何でも大歓迎だよ、俺は! 膝枕の方がもっとすごいことしてる気もするし!


 そう思ってイヤホンをつける。

 聞こえてきたのはあまり聞き覚えの無い曲で。


「亜理紗、これなんて曲?」


「BUMPのダンデライオンだよ……知らない?」


「俺BUMP全然知らないから。ごめん、わかんないや」


「そっか……それじゃあこれから好きになってね。私の好きなもの、ひー君にも好きになってほしいから」


「うん、好きになる……亜理紗も俺の好きなゆずを好きになってね!」


「ふふっ、私ゆずはもとから好きだよ……ふふふっ」

 そう言って笑う亜理紗の体温を身体で感じながら。

 5分前のチャイムが鳴るまでそのまま二人の時間を過ごした。



 ☆


「日向ただいま! すっごく楽しかった!!! 最高だった!!!」

 5分前に急いで教室に戻っても、まだ戻っていなかった新が授業開始直前に戻ってくる。


「楽しそうだな、新は。楽しかったなら良かったけど!」


「うん、最高だった! そうだ、日向は誰とお弁当食べたの?」


「ふふっ、ヒミツ」

 城戸さんといちゃつく亜理紗を見ながら、そう答えた。




「こら、亜理紗ちゃん! いちゃついとったんやろ、鮫島君といちゃいちゃしとったんやろ!」


「やめて、真衣、変なところ触らないで……やめてよ、真衣ちゃ~ん」



「竹之下さん、あの二人見てどう思いますか?」


「そうですね、富田さん……百合もなかなかいいですね!」


「それな!!!」



 ★★★

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