第25話 亜理紗の心配

「ううっ、これで終わりか。もっと食べたかったな」

 最後に残ったからあげを箸で掴んでそう呟く。

 夜ご飯とかで食べてるけどやっぱりお弁当は特別というか……ううん、名残惜しい! 亜理紗の作ったお弁当だもん、亜理紗が俺のために……あぁ、そう考えると特別感がすごくて、余計に食べるのがもったいなくなる!


「もう、そんな悲しまないでよひー君。また作ってあげるから」

 そんな変に葛藤している俺を見て、 亜理紗がくすくす可愛く笑いながらそう言う。


「え、本当? 本当に俺にお弁当、また作ってくれる?」


「えへへ、もちろん本当だよ。一緒に住んでるんだもん、いっぱいひー君に幸せ……こほん。とにかく、絶対絶対、また作ってあげるから笑顔で食べて。ひー君が笑顔で食べてくれたら、私もすっごく嬉しいから」


「ありがとう、亜理紗! 約束だよ、ありがとう! それじゃあ……うん、最後のから揚げまで美味しい! ごちそうさまでした!」


「はい、お粗末様でした。ふふっ、喜んでもらえてよかった!」


「そりゃあね、亜理紗のお弁当は最高だから。だって、大好きな人が俺のために作ってくれたお弁当だもん……ふわぁぁ」

 ……それにしてもなんだか眠くなってきたな。

 美味しいお弁当をお腹いっぱい食べて涼しいとはいえポカポカ陽気で……うん、これは仕方がないか。こんなに一気に幸せな気分になったんだもん、それは幸せの過剰摂取で眠たくもなりますよ。


「えへへ、そんなに喜んで、大好き……も、もう、ひー君! 食べてすぐ寝ると牛さんになっちゃうよ。もー! もーもー!」


「ふふっ、可愛い。亜理紗、動物だったら何でも可愛いじゃん、ずるい……えへへ、こんな天気だしお腹いっぱいだし……亜理紗、時間になったら起こして。僕ちょっと昼寝しちゃいたい」

 そう言って芝生の上にコロンと寝転がる。

 ちょっと寝心地は悪いけど、でも天然にしては良い感じ。


「ひ、ひー君からかわないでよ、もう……、ちょ、ちょっとひー君、寝ちゃダメだって! 一人で寝ちゃダメ、それにそんなところで寝ると制服汚れちゃうよ、怒られちゃうよ、ひー君のお母さんに」


「ふふ~ん、良いじゃん良いじゃん。この芝生結構気持ちいいし」


「もー……と、というか、その……ね、眠るなら亜理紗のここが空いてますよ~。ぜ、絶対こっちの方がそ、その……ね。寝心地良いですよ~、絶対芝生より気持ちいですよ~……よ~」


「ん~……ん!?」

 何か言ってる亜理紗の事を確認しようとコロンと振り返ると、亜理紗はスカートとニーソの間の絶対領域をポンポンと叩いていて……え、そ、それって……え?


「そそそそんな困惑しないでよ! あ、あの……ひひひ膝枕、してあげよかって……ひー君に、膝枕、その……亜理紗のお膝、どうですか?」


「え、その、えっと……ま、マジで?」


「あう、う、うん、ま、マジです。し、芝生の上で寝ると制服汚れちゃうし、その、えっと、その……絶対、私の方が気持ちいいし……にゃにゃー、た、たまには、どうですか、ひー君?」

 相変わらず恥ずかしそうに真っ赤に染まった顔をぷいっとそっぽに向けて。

 少し見える瞳にはうるうる涙が浮かんでいて……もう、無理してるじゃん、亜理紗。無理してまでしてほしくないよ、俺は


「む、無理なんかしてにゃい! わ、私は本当に、こうしないと……だからひー君……にゃーん……大丈夫だよ、ひー君おいで……んにゃ」


「絶対無理してるって……亜理紗、なんか焦ってる? なんかあった?」

 絶対に何かあった時の亜理紗だし。

 普段の亜理紗はこんなこと言わないし、それに言うときは涙なんか浮かべないし。ていうか絶対泣いてほしくない、亜理紗にはこれ以上。


 少しの沈黙の後、亜理紗の口が小さく開く。

「……今日ね、富ちゃんがひー君の事カッコいいって言ってたんだ。ひー君は王子様みたい、って」


「え、マジ? 富ちゃんが俺の事? 本当に?」


「うん、本当に。あとこの前はさくらちゃんも……ひー君はそれ聞いて嬉しい?」


「うん、まあ……そんなこと言われると嬉しくないことは無いけど」

 普通に嬉しいです、はい。

 例え誰に言われてもそれは嬉しいです! 特に富ちゃんは仲いいし嬉しいです、はい。


「……だよね、そうだよね。だから心配になっちゃたんだ」


「心配? 何が?」


「……ひー君誰かにとられるちゃうかもって。ひー君が他の人に、それは絶対嫌だから……だから、私もまだ、けど、もうちょっと……にゃー」

 不安そうに、どこか悲しそうに地面を見ながらそう言って。

 華奢な身体を震わせて、寂しそうに辛そうに。


 ……もう、そんな事考えてたの?

 心配性だな、亜理紗は!


「ふえっ、な、何するのひー君!? そんな急に頭わしわし、や、やめて……えへへ、もう、ひー君……ふにゃぁー、」


「ふふっ、ちょっとね。亜理紗は心配性だな、って思って! 安心していいよ、って! もう可愛いなぁ、亜理紗は!!!」

 寂しそうにうつむいた亜理紗の髪をわしわし撫でる。

 細くてキレイな髪の下からは亜理紗の悲鳴とも歓声ともとれるような可愛い鳴き声が聞こえてきて。


「亜理紗はもっと堂々としてていいの! そんなに焦らなくてもいいから、俺はゆっくり待ってるから! 絶対に、ずっとずっと亜理紗の事大好きで待ってるって!」


「で、でも……ひー君がぁ……」


「そんな心配しないで大丈夫! 前も言ったけど、俺が好きなのは亜理紗だけだし、これからも亜理紗以外を好きになる予定なんてないからさ! だからそんな心配せずに、亜理紗は亜理紗らしくしていればいいから! だから、亜理紗はいつも通りてくれればいいよ!」


「ちょっ、ひー君、そんな……はい、ありがとう、ございます。頑張るます……ぷにゃぁー……えへへ」

 そう可愛く鳴きながら。

 恥ずかしそうに、でも嬉しそうに顔を綻ばせて……うん、亜理紗はそれでいいよ!

 そんな感じで無理せず笑っていればいいから!!! 


「えへへ、ひー君……にへへ、えへへへ……にゃーん」

 無理せず、ずっと自分のペースで笑っていてほしい。

 それが一番、俺は嬉しいから……隣なら、特にね。




「でも、膝枕はしてもらおうかな?」


「えへへ……え?」



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