第23話 推しの話+耳元で囁いて

《まず亜理紗視点》


「ふんふふふ~ん、ふんふふふ~ん♪」

 今日はひー君のお弁当、私亜理紗が作ったんだ!

 ふふっ、ひー君気づいてくれるかな、喜んでくれるかな? 私が作ったってわかって、それでそれで帰って……って、あれれ? お弁当ちゃんと渡したっけか? 

 あれれ? あれれぇ?


「それでさ、やっぱりあの二人は推せるよね、日向君と新君! 仲良しだし、楽しいし……えへへ、新君から話聞くだけでも楽しめるっていうか!」


「……! ササッ」

 トイレで鼻歌交じりにそんなことを考えていると、突然友達の富ちゃんががひー君の話をしているのが聞こえてきたから思わず個室に隠れてしまう。

 別に堂々とすればいいし、なんなら富ちゃんとはそう言う話したことあるし、だから別に良いんだけど……なんか気分で隠れちゃった。そしてそのまま気分のままに盗み聞き。


「わかりますわかります! それに翔太君も入れて3人でもいいって言うか! ホント推しですわー!」


「あー、凄いわかる! 良いよねあの3人、あのトリオ、ホント推せるわー! ヒナ×新? 翔×ヒナ?」


「私は新×ヒナ!」


「あー、それもいいよね、そっちが攻めるのもありよりのあり! それにあの3人単体でいいって言うか! 新君は小動物みたいで可愛い系だし、翔太君は正統派爽やかイケメンだし、日向君はその中間だけどでもそれがキラキラ王子様って感じで! 3人とも個性の違うイケメンで! あー、推しの顔が良すぎますー!」


「それすごい共感! ホント顔が良いわ、あの3人……ちなみにちなみに誰が一番好み? 私は私は完全に日向君! 日向君の顔と声が好きすぎる! 日向君最推し! 別クラスだと葵くんも好き!」


「あー、最推し被っちゃった! 私も日向君が一番! 日向君のあの感じたまりませんよねー! 日向君は亜里沙ちゃんのだけどー、見て妄想するだけならいいよね! あ、でもその……一番いてくれて嬉しいのは、新君、だけど。新君が、その……一番楽しいけどね、一番!」


「うんうん……って危ない危ない。オタクの会話が存外盛り上がってしまったでござる、こんなところだと誰かに聞かれちゃう! 現実では日向君達を名前で呼べないどころか話すことも出来ない日陰女子なのにこんな話してると聞かれるとまずい!」


「私は日向君って呼んでるし普通に話すけど、確かにこれがバレるのまずい、私たちは静かに推しを見たいだけなのに! 新君に嫌われるのもやだし! だからこの話は放課後の部室まで封印ですな……絶対にダメよ、特に新君! 新君にはダメ、もちろん日向君も翔太君も!」


「そうですな! 取りあえずそろそろ授業も始まるし、授業中の推し観察にいそしむとしますか!」


「そうしましょうか! それでは行きますぞー!」


『おー!』

 そう掛け声を上げて会話をしていた二人は出て行く。


「ぷはっ……富ちゃん、やっぱり⋯⋯ひー君モテるんだな……むー」

 そりゃひー君カッコいいし、めっちゃイケメンだし、性格もいいし、優しいし、ちょっとえっちでいじわるだけど、でもそれもいいって言うか……とにかく魅力が多すぎてぽやぽやしちゃうけど。

 名前呼ばれたら正直今でもぽやぽやしてるし、めっちゃカッコいいし、モテるのはわかるけど。


 でもなんかこんな感じでモテてるの見ると……むー、って感じだ、ちょっと嫉妬しちゃう。なんかひー君取られたみたいで嫉妬しちゃう。


 ひー君は告白してくれたし、好きって言ってくれるし、私の事待っててくれるって言ってたけど……うかうかしちゃいられないかな?


 私がうかうかしている間に他の人に……そ、そんなのやだ! 

 ひー君は私と一緒にいるんだ、まだ、その……面と向かって好きとは言えないけど、でも私もひー君の事大好きだから……恥ずかしいけど積極的に、ならなきゃなのかな?


 積極的にお家でも……はわわダメダメ、ひー君そんな事……こほん。こ、これじゃあ私がひー君にえっちな子っておもわれちゃう……でもそうした方が……むーん。


「むー、でもそれは……あや、チャイム鳴った戻らなきゃ!」

 と、とりあえず今はお弁当の確認だ! あ、あと授業も!



 ☆

《ここから日向視点》


「……という事で日向、今日は翔太君も休みだし、僕も定例会だから! だから今日はお弁当一人だね、日向!」


「寂しいこと言うなよ、あらたぁ~」


「そんな声出してもだーめ! 日向と一緒は無理なんだ、ごめんね」

 3時間目の終わり、そう申し訳なさそうに新が呟く。


 今日は翔太は風邪ひいて休み(大会近いのに)、新は部活の定例会……となるといつもお弁当食べてるメンバーが誰一人いないじゃないか!

 さてさてどうしたものか、ここはヒロあたり……ってあれ? 今日亜理紗にお弁当渡してもらったかしら? 貰った記憶ないぞ?


「ちょいちょい、柊木さん、柊木さんや」


「ん、どうしたの……ん?」

 お弁当の真偽を確かめるために亜理紗の下へ。


 耳をトントン指さして、亜理紗の耳元で囁く。

「あのさ、今日ってお弁当貰ったっけ?」

 そう聞くと、ポンと手を打って、カバンの中を探す。


 そして申し訳なさそうに同じように耳をトントン、耳元コショコショ。

「ごめん、忘れてた。私今、ひー君の分と二つ持ってる。いつ渡せばいい?」

 少し熱い息とくすぐったい声が頭に心地よく響く……やっぱり渡してもらってなかったか。

 それじゃあもう一度お耳をお借りして……


「そうだな……あ、そうだ。それなら今日二人でお弁当食べよ。今日翔太も新もいないから俺一人なんだ。どうかな?」


「……良いよ、ひー君と一緒にお昼、嬉しい! どこ行けばいい?」


「廊下で待っててくれたらいいよ、行くのはその時のお楽しみ! それじゃあ今日のお昼は亜理紗と一緒だね」


「うん、一緒だね……えへへ」


「うん、一緒。楽しみだね、一緒にお昼……休みの日はいつも一緒だけど」


「そ、そうだけどが、学校ではあんまりないもんね……うゆゆ」


「ふふっ、そうだね。あ、そうだ亜理紗、今日の夜だけど……」


「ちょ、ちょっとストップ!」

 互いの耳元に囁き合っていると、突然亜理紗からストップが入る。


「どうした、あr……」


「み、耳元でこしょこしょするのストップだから! その、えっと……もう大丈夫だから、鮫島君! その話は後にして欲しい!」

 手を顔を隠すように大きく動かして焦ったようにそう言う。

 チラリと見える耳元は赤くなっていて、足はバタバタしていて……ふふっ。


「どうしたの、あーちゃん?」


「だから耳元禁止、それも禁止!!!」

 亜理紗の声が教室に響く。


 あはは、ちょっとやりすぎちゃったな、それじゃあ俺も自分の机に……

「ちょ、ちょっと待って……ん」

 帰ろうとする俺の制服の裾を亜理紗がギュッと握る。


「でもお昼は楽しみにしてるから……一緒に食べようね、ひー君」

 そう少し照れたような甘い息遣いと声で囁いてくれて……もう、亜理紗それはずるい。

 俺だって……ふふふっ。


「りょーかい、あーちゃん。俺も楽しみだよ」


「……ひー君のあほ……私も楽しみ」

 俺がもう一度囁くと亜理紗はそっぽを向いて何も言ってくれなくなった。

 でも真っ赤になって恥ずかしそうな顔を指で楽しそうに弾いていて……ふふっ、俺も楽しみだよ、お昼ご飯!


 ☆


「という事で僕は定例会行ってきます! ごめんね、日向、でも止めないで、僕は行きます!」


「お~、止めないぜ、行ってらっしゃい! なんかすごい人が来るんだっけ?」

 昼休み、ワクワクウキウキした顔で敬礼をする新に俺も同じように小さく敬礼。

 この日を新は毎度毎度で結構楽しみにしてるんだけど、確か偉い人が来るとか何とかだった気がする。


「うん、偉い人ですごい人! 巨匠みたいな人だからね、本当に会うの楽しみなんだ! という事で日向行ってきますね!」


「巨匠か……ふふっ、楽しんで来いよ新!」


「うん! 楽しんできます!」

 そうワクワクした、でもどこか緊張した足取りで歩いていく新を見送る。


 さーてと、俺も亜理紗とヒミツのお昼ご飯タイムを……ってありゃりゃ、もう亜理紗行っちゃってるじゃん、廊下にいるのかな?


「……あれ、どこ……あ!」

 そう思って廊下に出てもどこにも亜理紗の姿は見当たらなくて。

 キョロキョロ周りを見渡していると廊下の端っこでお弁当を2つもちながら小さく手を振っている亜理紗の姿が目の端っこに……もう、なんでそんなところいるのさ。


「だ、だって……だってなんだもん」


「何、ハニーフラッシュ?」


「ちょっと古いよ、ひー君。わかるけど」

 俺のツッコミにクスクス楽しそうに笑ってくれて……ってあれ?


「普通に話してるのにそっちで呼んでくれるんだ」


「え、あ……お昼休みの廊下って人多いし! だからひー君って呼んでもバレないかな、って……だ、ダメだったかなひー君?」


「ううん、むしろ大歓迎だよ亜理紗。俺はずっとそう呼んでほしいからさ」


「ずっとは恥ずかしいし、私が持たないかもだけど……でもこうやって二人の時くらいそう呼びたいから。だからお昼ご飯よろしくね、ひー君!」

 手をこねこねしながらも、俺の方を向いてそう笑って。


「もちろんだよ、亜理紗! 俺も亜理紗と一緒で嬉しいから!」

 人の多い廊下を、階段をそんなことを話しながら体が当たりそうな距離で歩いた。



「……ところでひー君、今日はどこ連れてってくれるの?」


「それはついてからのお楽しみ!」





「ちょっと亜理紗? あーりさちゃん? どこ行っちゃったの、私を置いてどこ行ったの!?」


「あ、まいちゃん。亜里沙ちゃんならさっき楽しそうに廊下に出ていったよ」


「え、そうなんだ……むむむ! 鮫島君もいないし……ああ、絶対あいつらいちゃいちゃしてる! 私を置いて二人でイチャイチャタイム突入なんだよ! 今日は推しの翔太君もいないのに、それなのに私を置いて……むー、亜理紗め! 亜理紗だけイチャイチャしおって! 頑張れよ、ちくしょう!」


「お、推し、翔太君……まいちゃん、私たちと一緒に今日はご飯食べない? 久しぶりにどう?」


「え、いいの? それじゃあとみーちゃんに竹ちゃん、失礼しますね~」


「うん! それで推しの話なんだけど……まいちゃんは翔×ヒナですか? それとも翔×新? そ、それとも……」


「え、翔×ヒナ……な、何それ? どういう事? なんかたまにとみーちゃんわかんないこと言うよね」


「あ、はい、ごめんなさい……何でもないです。新君には絶対言わないでください」



 ★★★

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