第21話 あだ名

 あの後、しばらく二人とも顔が見れずに、互いにジュースを飲みながらアルバムをめくる時間が続いて。

 でも冷えたジュースの力でそれなりに落ち着いて、何とか話せるくらいまでは回復して。


「うーん、このころの鮫島は確かにヒナちゃんだけど……今の鮫島はヒナちゃんとは呼べないね。う~ん、どうしようか?」

 アルバムをパタンと閉じた柊木が唸り始める。

 確かに今の俺は普通に男だからヒナちゃんではないよな。


「そうなんだよ。他にはあだ名ないの?」


「あるっちゃあるけど……鮫島でシャー君とか」


「シャー君! 良いじゃん、カッコいい!」


「あ、ごめんやっぱりやめて! それだけはやめて!」

 あのバカップル先輩達と柊木が不意にかぶってしまった、何たる不覚!

 この呼び方するのあのバカップル先輩方だけだから……それにしてもちょっとヤダ!


「え、何で? しっくり来たけど」


「ダメったらダメ!」


「そっか、あだ名って難しいね……」

 そう言って再びう~んとうなり始める。


 他に何かあったかな、そう思っていた時柊木の手がポンとなる。


 何かあった、と思って振り向くと、少し恥ずかしそうにこっちを見ていて。

「鮫島、その……わ、私が鮫島のあだ名、つけていいかな?」

 小さな声でそう呟く……柊木が俺にあだ名? もちろん大歓迎だよ!


「そ、そっか……と、友達にあだ名付けるの初めてだからちょっと緊張するね、えへへ……」

 そう可愛く笑って、う~んと再びシンキングタイム。

 しばらく待っていると聞こえてくるのは「よし!」という明るい声。


「決まった、俺のあだ名?」


「うん……で、でも本人に言うとなるとは、恥ずかしいな……ふふっ」


「でも言ってくれないと意味ないよ?」


「そ、そうだけどさ……え、えっとそ、それじゃあ鮫島いうね!」


「うん、聞かせて」


「う、うん、えっとね、その……ひー君」

 少しかすれたでも可愛い小さな声で。

 恥ずかしそうに赤らんだほっぺが存分に見える少しうるんだ上目づかいで。


「ど、どうかな、その……ひー君? その、私の柊木とも似てるし……えへへ」


「い、良いんじゃねえか! 良いと思うぜ、オリジナルで良いと思う! うん、良いと思う!」

 ……破壊力がすごい!

 何その可愛い顔、何その言い方、何その可愛いあだ名はひー君なんて初めて呼ばれて、しかもそれがこんなに……やばい可愛い大好き、めっちゃ好き! 

 さっきまで引いてたのにさらに身体に熱が……ああ好き!


「ん? ひー君照れてる?」


「て、照れてねえし! その……別に照れてない!」

 嘘です、めっちゃ照れてます! 

 今のからかうような表情もめちゃかわです、あとひー君呼び好きマジパない!


「本当に? 本当にひー君?」


「ほ、ホントだってば……あ、そ、そうだ! そっちにもあだ名付けてやるよ、そうだな、えっと……あ、あーちゃん! 俺がひー君なんだから亜理紗はあーちゃん! ど、どうだ? あーちゃん、可愛くない?」


「え、あ、あーちゃん? 私が?」


「うん、亜理紗だからあーちゃん……ど、どう?」


「……うん、凄く良い。可愛いし……初めてつけてもらったあだ名だし、しかもそれがひー君で、だから、その……えへへ、ひー君!」


「もう、何それ……ふふっ、あーちゃん!」


「ふふふっ、ひー君!」


「あはは、あーちゃん!」


「ふふっ、ひー君!」


「あーちゃん!」


「ひー……あ、まって! ちょ、ちょっと待って……にゃぁー」

 少しの間お互い赤い顔を隠そうともせずに名前を言い合っていると、先にあーちゃんの方がダウンする。


「どうしたの?」


「え、えっと、その……やっぱりあーちゃんって呼び方、なしがいい、です」


「気に言ってたんじゃないの?」


「うん、好きだし、ひー君がつけてくれた奴だけど、でも、その……ひー君とあーちゃんは、その……ば、バカップルみたいで、その……ま、まだ早いよぉ、恥ずかしさとか色々がこみあげてきて……んにゃー、ぷにゃ」


「……!?」

 ふわりと消えそうな声だったけど、でも俺の耳にはバシッと入って……た、確かにあのバカップル先輩もそんな感じの呼び方だし……た、確かに俺たちにはまだ早いな!


「う、うん……だから私の事は亜理紗でいいよ、そっちの方がまだ、大丈夫、今はそっちがいい」


「わ、わかった! あ、亜理紗!」


「うん、それでいいです、ひー君……あーちゃんはたまにならいいよ」


「え、たまにならいいの?」


「た、たまにだよぉ……本当にたまにだったらあーちゃんとひー君でも……そ、それに私が日向にちゃんと……あ、そそそそうだモンハン! モンハンやるって言ってたよね! やろ、一緒にしよ、ひー君!」

 最初の小さな声を誤魔化すように、大声で俺をモンハンに誘ってそのまま手を引く。


「いいね、何狩猟する?」


「えっとね、私は……マガマガさん倒したい」


「マガマガ……ああ、マガにゃんね。いいよ」


「マガマガさんだよ……そのマガマガさん強いから協力しないといけないからさ……だからよろしくね、ひー君!」


「うん、亜理紗! 頑張ろうね!」

 恥ずかしそうに、楽しそうな笑顔を浮かべる亜理紗に俺も微笑み返す。

 なんだかさらに距離が縮まって、もう少しな気がして……それにしてもひー君の破壊力はいまだ健在だけど。




「あ、あのさ、ひー君。ちょっといい?」


「うん、あやばい、お手が来る、よけて亜理紗! 鬼火あるから気をつけて!」


「う、うん、よいしょ……OK.それで話はね、学校ではまだ柊木と鮫島、で呼んでほしいってことなんだ。その、まだえっと……恥ずかしいし」


「ナイス! もう捕獲できそうだから罠置くよ……ってそんな事か。良いよ、亜理紗が慣れるまで俺はずっと待つ、って言ったし」


「えへへ、ありがとひー君」


「うん、当然でよ亜理紗! でも家にいる時はひー君って呼んでよ、あーちゃん」


「そ、その呼び方ダメだよ、ひー君のいじわる……ふふっ、ひー君!」



 ★★★

 どうも、マガマガ布教したい人です。最新作出る前にね、みなさんマイマガドはマガマガって呼びましょう! 

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