第20話 日向の話
「亜理紗、父さんも母さんも言ってる通り大事な話なんだよ? だから亜理紗ももっと……」
「ちょ、鮫島、その、えっともうちょっと……わ、わざと言ってるでしょ、それ! もう、もう鮫島! そんないじわるしないでよ、鮫島のとんちんかん! にゃー」
反応が可愛かったのでしばらく亜理紗って呼んでいると、怒ったように顔を赤くした柊木にぽこぽことお腹をネコパンチ。
照れてる感じのふにゃふにゃパンチで全然痛くなくて⋯⋯でもそろそろ潮時かな?
「ごめん、ごめん。亜理紗の反応が可愛かったからつい! ホント亜理紗が可愛いから!」
「ふゆっ、また……それに……むー、むっ! むむむ、何も聞こえないよ、聞こえないよ!」
俺の言葉にまたまた顔を赤くした柊木が、真っ赤な耳を押さえてぷいっとそっぽを向いて……やばっ、今度はやりすぎた。可愛すぎるけどやりすぎた!
「ごめん、今度は本当にごめん……でもさ、名前で呼ぶのは結構重要というかこの家で暮らすなら大事なことだと思うんだ。母さんも言ってた様に、俺の家全員鮫島だからさ。確かにまどろっこしいし、俺の事も、ね?」
「……それは分かってるし、私だってそうしないと思ってるよ。でも、その……気持ち的に鮫島に向かって堂々と名前言うのはその、えっと……恥ずかしいし、ドキドキするもん。ふわふわして気持ちよくなっちゃうもん。まだ堂々とは早いもん」
耳を押さえたまま、蚊の鳴くような小さな声でそう呟く柊木。
真っ赤に染まった耳もしゃがみ込んだ体育座りのふとももも⋯⋯身体全体をゆらゆらぴくぴく揺らして。
……あの時にもそう言う事言ってたし、やっぱり急には難しいよな。
それに今の感じで名前で「日向」って呼ばれたら、俺だってドキドキしてふわふわしちゃいそうだし。名前で呼ばれただけでちょっと色々やばくなりそうだし。
やっぱり気持ち的に簡単に名前で呼べないのは俺も柊木も一緒みたいだ……それじゃあ!
「それじゃあさ、柊木、あだ名ってのはどうだ? あだ名って言うか、愛称みたいな……それなら呼べるだろ? 直接名前じゃないし、ちょっと和らぐって言うか!」
あだ名ならちゃんと判別つくし、それにあんまり名前呼んでる感ないし!
それにちょっとの特別感も感じていいんじゃないかな、ってことで!
俺の言葉に柊木の小さくて可愛い真っ赤な耳がぴぴぴと反応する。
「あ、あだ名? それってどういう……?」
「小学生の時とか中学の時呼ばれてなかった?」
「……私、その時友達いなかったから、そう言うのは……」
悲しそうな声でそう呟く柊木……そうだった、完全に忘れてた!
「あ、ごめん、そうだったね……あ、それなら俺のあだ名だ、俺のやつ教えよう! 俺は名前が日向だからヒナちゃんとか鮫島日向の頭文字取ってサナちゃんとか、逆に後半取ってナターシャとか……そんな感じのあだ名で呼ばれてたぜ?」
「……なんか女の子の名前みたいなあだ名だね、鮫島の。ヒナとかサナとか可愛い感じなんだ」
少し落ち着いたのか、顔色がもとに戻りつつある柊木がほへー、という感じでそう言う。
確かに女の子っぽいあだ名だけど、一応これ理由あるんだよね。
「俺中2ぐらいまでめっちゃ身長低くてさ。顔も女顔だったから割と女の子に間違われることも多くてさ。髪もそれなりにあったし」
「鮫島は割と今も女顔だけど……でも、そう言う事なんだ。それでヒナちゃんとかサナちゃんとか……ふふっ、その時の鮫島の顔、見てみたいな」
「それなら見てみる? アルバム、テレビの下に置いてあるけど」
「うん、見たい見たい! そう言えばこの前家で私のアルバム勝手に見てたし、私もヒナちゃんのアルバム見る権利があると思います!」
「今ヒナちゃんって呼ぶのはやめて、やっぱり恥ずかしいから。それにあれはお母さんが……まあいいや、これが小学校の時のアルバム。学校のじゃなくて家族写真とかだけど」
ヒナちゃん呼びしてきた柊木に少し違和感を感じながらも、テレビ台の下からアルバムを取り出して手渡す。
「ううん、むしろそっちの方が小っちゃい鮫島がいっぱいで楽しそう! どれどれ……ん、これって鮫島のお姉さん? 会った事ないけど今はすごくキレイな人だと思う! めっちゃ可愛いし!」
アルバムを受け取った柊木は興奮気味に写真を指さして俺に聞いてくる。
岩場で半袖でポーズを取る、小さい子供の写真。
「あ、これ姉ちゃんじゃない。これが俺、小さい時の俺」
「えー、お姉さんじゃないんだ、これがさめ……えっ!? えっ!? えええ!?」
「ちょ、柊木落ち着いて落ち着いて……割と同じ反応されるから慣れてるけど」
驚愕した様に写真と俺を交互に見て口をパクパクする柊木をなだめる。
この反応、懐かしいな、新に写真見せた時も同じ反応されたよ。
「いや、だってこれ完全に女の子。めっちゃ可愛い女の子……え、もしかして鮫島って、名前もどっちも行けるし、え、え、えええ!? えええ!?」
「だから落ち着いて落ち着いて! 俺は男だよ、柊木も知ってるでしょ? 本当に中学くらいまではこんな感じだったの、結構女の子みたいな感じだった。ヒナちゃんとかサナちゃんとか言われてた理由もわかるだろ?」
「あ、良かった鮫島男、良かった……た、確かにこれは女の子だ、ヒナちゃんだ、サナちゃんだ、ナターシャだ……ねえねえ、もっと読み進めていい?」
「もちろん、たんと読んでくれ」
そう言うと待ってました! と言わんばかりにページをめくり始める。
その顔はキラキラと輝いていて。
「……それにしてもこのころの鮫島可愛い、めっちゃ可愛い、妹にしたい。本当に可愛いよ、ヒナちゃん。寝顔の由来は……プルプルプル。あ、ヒナちゃん、これこそ本当にお姉さんでしょ! 女の子の服着てるしめっちゃ可愛いし!」
「だからヒナちゃんやめて、可愛い連呼も恥ずかしいから禁止! えっと、その写真は……残念、それは面白がった親戚に女装させられた俺だ!」
「ふふっ、さっきの私の気持ちを味わえ、ってええ! これまでヒナちゃんなの、ポテンシャルやばすぎる、凄すぎる! ヒナちゃん可愛すぎ……じーっ」
「だから可愛いとヒナちゃん禁止……ってどうしたの? 急に俺の方ジッと見て」
はわわわと興奮した様子の柊木が今度はジーっと俺の方を見つめて……そして恥ずかしそうにポッと顔を赤くして逸らして……え、えっと何をご所望で? 割と俺も恥ずかしいんですが?
「あの、えっと……今の鮫島もこれくらいのポテンシャルあるのかな、って」
「……ぽ、ポテンシャル?」
「うん……だってこの時の鮫島ことヒナちゃんめっちゃ可愛いし、完全に女の子だし。だから今も女装とかメイクしたらこんな感じになるのかなって……こんな感じで女の子みたいに鮫島がなったら、私もうちょっと素直に、もうちょっとふわふわドキドキしないようになれるかな、って……ちゃんと気持ちも言えるかなって」
恥ずかしそうに顔を逸らしながらそう言う柊木。
なるほど、俺が女装すればもしかして柊木とちゃんと……いやでも!
「それはヤダ。絶対に女装しない!」
「……なんで? 可愛いと思うけど」
「だって、その……柊木には今の俺にちゃんと気持ち伝えてほしいから。俺が好きになったのも今の柊木だから、女装した俺じゃなくて……今の俺にちゃんと好き、って言って欲しいから」
ガシっと柊木の腕を握って、目を見つめながらそう……ってあれ? ななんか身体が熱くなってきて、顔が赤くなるの感じて、柊木も顔真っ赤で湯気出てて……アレ、ちょっと待って俺なんか凄いこと……!
「うえっ、その……うえわうわわわわっ……そ、その……ががががんばるます、もっとがんばるます……ぷしゅー」
「……ご、ごめん、さっきのは俺も恥ずかしかった……あ、そ、そうだ、ちょちょちょちょっと飲み物入れてくるから柊木は自由にアルバム読んでて!!! 自由に読んでていいから!」
「う、うん……ぷゆー」
頭から湯気を出す柊木の顔をまともに見れずに、自分の真っ赤になった顔を隠しながら飲み物を入れるためにキッチンに向かう。
なんか勢いに任せてやばいこと言った気がする、大変なこと言った気がする……やばいよ、俺も湯気出るよ、沸騰しちゃいそうだよ!!! 身体熱いよ……ぴゅやや。
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