第15話 新たな日常
「猫ちゃんもふもふ~! 可愛いなぁ、もう!」
ああ、猫ってなんでこんなに可愛いんだろう、もふもふ可愛くて最高だ!
いっぱい可愛がってあげるからね、待っててね!
「ぬへへ、猫ちゃ~ん! むふふふ」
「……きて、ひな、おきて」
「む~ん、可愛いなぁ、吸って良い? はすはすしていい?」
「……なんてクリアな寝言でしょう。楽しそうな夢見てるね、ひ、鮫島?」
ん~、猫ちゃんを吸ったら戻れなくなっちゃうよ、これはいけないやつだ! 禁止されてないだけで脱法でしょこれ!
「……ふふっ、日向相変わらず気持ちよさそうで可愛い寝顔……でももう朝だから起きないとダメだよ。ほら、ひな、鮫島起きて、起きて! もう朝ごはん出来てるよ、おばさんに怒られるよ……それに猫ちゃんばっかり……にゃー、亜理紗だにゃー。わ、私がいるから起きるにゃー……にゃー、亜理紗の事も、日向の事がす……にゃー……まだやっぱり言えないよ……」
……あれ?
なんだかはすはすしてた猫ちゃんの身体が変わってきたというか、なんだか柊木にそっくりになってきたというか、猫耳としっぽをはやした本人というか。
さっきまでの猫ちゃんと同じように俺に抱き着いたまま嬉し恥ずかしそうに「にゃー」と鳴いて、でもどこか嫉妬した様に頭を摺り寄せてきて。
むすーっとした赤い顔でふにふにと柔らかくていい匂いの身体を俺に寄せてといじらしく鳴きながら頭をすりすりと……うん、これは完全に夢だ。
柊木とはまだそんなことになってないから、もう少し待たないとだから。
「にゃー……鮫島ホントそろそろ起きにゃさい。ホントにイタズラ……にゃー」
だからもうそろそろ起きないと。
可愛くにゃーにゃー鳴いてる柊木から離れるのは名残惜しいし寂しいけど、でも起きないと学校に遅刻するし、それに起きないと本物の柊木にも会えないし。
「にゃー……ひなたぁ、その、私……」
「……おはよ、柊木。いつも起こしてくれてありがとね……ってどうかした?」
「うえっ!? ひ、さ、鮫島いつから起きてたの!? いつから起きてた!?」
楽しい夢にサヨナラバイバイしてパチッと目を開くとそこには可愛いエプロン姿でわちゃわちゃ焦った柊木の姿が……起きたのはちょうど今だけど、今度は何してたの?
「いや、別に何も……何もしてないし! ただおばさんに頼まれて鮫島の事、起こしに来ただけだし……だ、だから何もしてないし!」
ぺちぺちとエプロンのぽっけを叩いて、赤いほっぺでそう言う柊木……ん~、なんか怪しいな?
「本当に何もしてない~?」
「し、してないって! してるわけないじゃん、朝だし起こしに来ただけだし! ていうか毎日起こしてあげてるの感謝してよね!」
「それはありがと……でも本当の本当に? あ、そう言えば夢の中に柊木が出てきたんだけど」
「ぴえっ……そ、そんなの偶然でしょ?」
柊木から変な声が洩れる。
これは何かしてたな、もうちょっとからかっちゃえ!
「夢の中の柊木も可愛かったな、猫耳にしっぽで本当の猫ちゃんみたいで可愛くにゃーにゃー鳴いてて……んっ」
「ぴやっ、す、睡眠学……な、なんて夢見てるの鮫島は! そそそそんな夢、肖像権の侵害だよ、そそそそれになんで手、広げてるの?」
「夢の中で柊木が俺にギュッとしてくれたから。だから現実世界でも、ね?」
「ね、じゃないよ、ばばばバカじゃないの! ど、どんな夢見てたの、成功しすぎ……な、何でもない! そ、それにまだ朝だよ、そんなことしちゃったらダメ!」
「ふふっ、朝じゃなかったらいいの?」
「そ、それは言葉のあややで……も、もう調子乗るな、鮫島! そんなえっちなこと考えてないで早く起きろ! 私もおばさんも怒るよ、そろそろ! もっとぺちぺちするよ!」
しばらく柊木をからかい続けていると、怒ったように顔を真っ赤にして頭をぺしんと叩いてきて……全然痛くはないけど目は覚めたかも。
「アハハ、ごめんね柊木。すぐ起きるよ、着替えるから先降りてて」
「むー、本当に鮫島は……ご飯、もう出来てるから早く降りてきてね! 変な事しないで早く降りてくるんだよ!」
ぷんすかと怒りながら背中を向けてどすどすと部屋の外へ歩き出す。
今日は夢のせいもあってちょっと元気だけど、でもその言葉に従って早く起きるかな、なんて思ってていると柊木がくるっと振り向いて。
「その……今日もお味噌汁、私が作ったから。亜理紗特製の美味しいお味噌汁だから……だから温かいうちに味わって食べてよ! 待ってるから!」
そうニコッと微笑んで駆け足で下の階に降りて行く。
「……やっぱり最高!」
大好きな女の子が毎朝起こしてくれて、朝ごはんの味噌汁も作ってくれて、一緒に学校にも行って……俺の新しい日常は最高の日々だ!
……色々関係も進めたらもっといいんだけど、それは柊木のペースでいいし。
「日向起きるの遅い! いつもいつも亜理紗ちゃんに……ちょっとは見習いなさい! お父さんも何か言ってあげて!」
「日向、もうちょっと起きた方が良いよ……お母さんの機嫌のためにも」
「へいへい、ごめんやさい……うん、柊木味噌汁美味しい! いつもありがとね!」
「えへへ、そう……良かった鮫島に喜んでもらえて。これからも毎日作ってあげるからね! 夜ご飯とかも頑張るから!」
「お、それは嬉しいね! じゃあ毎日期待しておこうかな!」
「うん、期待しててね、鮫島!」
『……』
☆
『行ってきまーす!』
「はいはい、行ってらっしゃい。気をつけていくんだよ!」
「学校頑張ってね、二人とも!」
柊木特製美味しい味噌汁付き朝ごはんを食べて少し準備して登校の時間。
両親に見送られながら、俺は玄関、柊木は裏口。
そして少し歩いた先の、いつもの場所で。
「むー、これなんか私の方が歩いてないかな?」
「そんな事ないって一緒ぐらいだろ……それよりまた小指繋ぐ?」
「いや、それは……もう今日の鮫島はちょっといじわるでえっちだ! まだダメです、そう言う事はしません!」
「えー、前はしてくれたじゃん!」
「それはだって、あの時は……うー、ばか! 早く学校行くよ!」
そんな風にいつも通りの会話をしながら、左数十センチに柊木を感じて足並みそろえて学校へ。
「なあ、日向? 日曜練習試合だけど来るか? あと夜マルチやらね?」
「あ、いいね! どっちもいいねだよ、やろうやろう!」
「あ、それ僕も賛成! 僕も参加するし試合も見に行く!」
学校に着いてからはやっぱりいつも通り、変わらない日常。
変わったことがあった方がおかしいんだけど、でもやっぱり何もなかったかのように静かで当たり前で楽しい日常で。
「なあ、日向? やっぱり柊木さんの弁当、お前と同じだろ!」
「うわぁ、またのぞき見してるよ、こいつ! そう言うの本当に趣味悪いですわよ!」
「そうだよ、翔太! 僕もあんまり人のお弁当見るのは感心しないなぁ!」
「だからたまたま見えて……まあいいや。俺が悪かったです、俺が!」
……相変わらず翔太は目ざといけど、でもまあそこは適当に回避して。
新しい生活になっても、俺たちの学校での日常は変わらない。
★☆★
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