第40話
「ふっ……くっ、苦し……」
酸素の代わりに北木の色気を注がれ、絵里はクラクラに酔わされ危険を感じて降参だと北木の胸を叩く。
唇は直ぐに解放されたが名残惜しそうに銀の糸が繋いでいた。絵里の呼吸に糸が切れると北木は何かを待ち望んでいるようにニッコリ微笑んだ。
――やっぱり狐みたいで食えない男!
ただ、絵里の真正面で不安と期待の目を向ける北木を可愛いいと思い、喜んだ笑顔をみたい気持ちに抗えない。
「少しは分かってもらえた?」
「北木課長……取り敢えずじゃなく好きですよ。だから離して下さい!」
北木の顔は喜びと幸せに満ちた笑顔に変わり、絵里をさらに抱き込んだ。
呼吸を確保するのに絵里は北木の胸から顔を横にずらす。そこから窓の外が見え、相変わらずのお天気雨だったが、少しずつ雨が弱くなって沈みかけた太陽の光だけになる。
「あっ、思い出した……狐の嫁入りだ!」
絵里が呟くと北木が驚いたように腕の力を緩めて絵里の顔を覗きこむ。
「たしか不可思議なことが起きるなんて言われていたな」
北木が首を傾げて話すと絵里はクスクスと笑い出す。
「そうですね。北木課長と私が付き合うことになったんですから、不可思議ですよ」
「ハハッ、本当だな」
顔を見合わせて笑っていた二人の影がまた重なった。
お天気雨の日は狐が結婚を喜び気まぐれに、晴れの日にコンコンと恋を降らせることがあるようです。
完
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます