第39話

「行っちゃいましたね。綺麗だったなぁ」



「紺野く……え、絵里」




 上ずった声で北木が絵里の名前を呼んだかと思うと、肩を掴んで引き寄せ抱きしめる。




「どうしました!?」




 抱き込まれた絵里は豹変した北木の行動に戸惑い困惑して目を瞬いた。




「あんな姿で絵里に抱きかかえられ、ずっと逆なら良かったのにと思っていた。それに、取り敢えず好きはやめて欲しい」




 何かが吹っ切れたようにグイグイと変な色気を漂わせながら、攻めてくる北木に絵里は自分のペースを失う。



 絵里を抱きしめる腕の力が強まり、耳元に顔を近づけ北木が囁く。




「取り敢えずは駄目だと言ったのは絵里だ……」



「み、耳元で話すのは止めて下さい! 北木課長のことまだ深く知らないし、仕方がないと思うんです」




 しどろもどろに答える絵里に北木の細い目がさらに細まりニヤリと笑う。




――まだクズハのままなんじゃないの?




 そう疑うほど不器用な北木とは思えないほど艶っぽく危険な香りを漂わせている。




「それなら、狐を見習って余興の続きをしたら深く知ってもらえるかな」




 北木は吐息交じりにまた耳元で囁き、固まる絵里の顎を片手で持ち上げ、ゆっくりと顔を近づけ唇を合わせた。



 一度唇を離し絵里の瞳を探るように見つめてから啄む様に何度かキスをした後、嫌がる様子のない絵里に深く濃厚なキスをする。



 力が抜けだした絵里の腰を片手で支え北木は胸元に手を滑らせていくが、クズハのようにボタンを外れていかずブラウスの上から胸を撫でるだけだった。

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