再び出社
第30話
翌朝、絵里は北木を紙袋に入れて出社する。エニシには終業までクズハに気づかれない場所で様子を見て貰うことにした。
狐の痴話喧嘩に他の誰かがまた巻き込まれでもしたら大変だ。
オフィスに着くと北木のデスクには身だしなみをいつもの様に整え、人の姿をした北木もといクズハが座っていた。
「ちゃんと来てる。良かった……」
絵里は出社してきているクズハにホッとしながら、紙袋から北木を出す。
デスクに北木を座らせていると出社してきた真紀が狐のぬいぐるみを見つけて駆け寄ってくる。
「おはようございます! もう大好きになっちゃったんですね」
「えっ?! あぁ……うん」
真紀はただの狐のぬいぐるみを指して聞いているのだが、中身が北木だと知っている絵里は答えに詰まる。
――昨日の夜に中途半端な賛辞を北木から聞いたせいかな?
表情などまるで分からないが北木をチラリと見ながら、歯切れの悪い絵里の返事に首を傾げている真紀に苦笑いを見せて席に座った。
「絵里先輩、悩みごとあったら聞きますよ? 出会いがないなら、合コンとか柴田君に協力してもらって人集めますから!」
「大丈夫! ありがとう」
「本当ですか? いつでも相談乗りますからね」
心配そうな顔をしていたが絵里がにっこり笑って見せると、真紀は渋々自分のデスクに戻って行く。
――恋愛に効果があるみたいな人形を連れ歩いていたら心配にもなるか。
去って行く真紀にホッと胸をなでおろし、パソコンの電源を入れようと手を伸ばす。
クズハを見張るように置いた北木が向きを変えジッと絵里を見つめていた。
吃驚して小声で北木に注意すると尻尾がピクリと動く。
「ちょっと、何考えてるんですか! 誰かに見られたらどうするんです?!」
「合コンか……」
「行きたいんですか? 人に戻ったら声かけますよ?」
小声で冷ややかに言うと北木は「必要ない」と不機嫌そうに答え、ぬいぐるみのフリに徹して動かなくなった。
――なんか調子が狂うな。これ、完璧意識しちゃってるよ私。
片手で頭を押さえながら北木の向きを変えていると、朝礼が始まりクズハが簡単に業務連絡などを伝え一日が始まった。
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