第28話
宅配ピザをテーブルに広げ、すっかり部屋着に着替え寛ぐ絵里は、ビール片手にエニシの熱い語りを聞いていた。
絵里と北木はうんざりするほどエニシに惚気話を聞かされ、お腹いっぱい胸いっぱいになった頃、逃げるように二人でベランダに出た。
「胸焼けしそうだ……」
「フフッ、お酒でタガが外れたのかもしれないですね」
部屋の中を見るとソファーに寝転んでウトウトしているエニシの姿が見え、絵里と北木は顔を見合わせて笑う。
北木は下に落ちないように、ベランダの手摺に掴まって尻尾を下げて溜息をつく。
「北木課長? 大丈夫ですか?」
「あぁ……少し反省をしていたんだ。エニシと一緒で女心が分かってなかった。今まで、付き合ってきた女性が去って行った理由がやっとわかった気がして……」
おそらく人の姿で表情が分かれば、苦笑いをして情けない表情を見せていただろう北木に絵里は首を振る。
「偉そうにエニシに言いましたけど、自分のことを重ねて、ほとんど八つ当たりだったかもしれません。クズハと私よく似てる気がするんですよ」
「紺野君とクズハが? あまりピンとこないな」
「立場というか……若いころは周りなんか気にもせず、もっと気軽に恋愛していた気がするんですよね。年を重ねたら、知りたくなかった打算やら妥協を覚えて取り敢えず付き合ってみて、肝心な気持ちを確かめないまま、ずるずる続けて別れて20代のほとんどを無駄にしちゃったな」
ベランダに持って来ていた缶ビールを口に付け一息入れる絵里を北木は細い糸の目で見つめる。
二人ともいい大人だ。恋愛の一つや二つあって当然のことだったが、お互いに話す方も聞く方もモヤモヤと嫌な気分を味わっていた。
「一人でもどうってことないって見栄張っても、幸せそうなカップル見ると良いなって……若いころはカラッと晴れていたのに年齢と共に雲が出て、天気雨みたいな変な風になって適当も嫌だし怖くて恋愛できなくなっちゃて……」
痛々しく笑ってみせると、持っていた缶ビールを一気に飲み干す。
缶ビールを手摺に置いた絵里はほんのり酒で顔を赤らめ、潤んだ瞳でもう一度、北木に笑って見せた。
「最近、愚痴る相手もいなくて済みません。明日、ちゃんと戻れると良いですね。エニシはこのまま泊まるつもりかな……」
視線を逸らしその場から逃げるように後ろを向いた絵里を北木が呼び止めた。
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