第27話
テーブルに冷たいお茶を淹れたグラスを3つ並べ、絵里はソファーに座りテーブルを挟んだ向かいで正座する北木とエニシ。
「紺野、済まないが俺はどうしてもクズハと会って話したい。その為にも俺に助言をもらえないだろうか?」
手を着いて深々と頭を下げてエニシに乞われると、絵里は仕えている神様は助けてくれないのかと言う意地悪は飲み込んだ。
「頭上げてよ。エニシはクズハのどこが好きなの?」
唐突に絵里に質問され、エニシは頭を上げるとしばし考えた後に答える。
「全部」
「全部ねえ……たとえばどこ?」
「優しく若い狐に根気よく仕事を教えるところや、いつもしっかり者で強気な感じがするが、実は甘えたなところ……屈託のない笑顔は本当にとろけるようで……はぁ、クズハ」
変なスイッチがはいりそうなエニシに「もうわかった」と絵里が止める。
エニシの隣で短い足を後ろに織り込んで聞いていた北木も首を振って若干あきれた素振りを見せていた。
「クズハのことが好きなのは分かったわ。それを直接クズハに言ったことある?」
「まさか?! は、恥ずかしくて言えない。でも贈り物をしたり毎日、会いに行っていた」
「だからなに? 好きって気持ちを言葉で伝えなくていいんだ?どっちもさ、好きじゃなくても出来るよね」
「そんなことは!」
体を小さくして俯いてしまったエニシの隣で、突然、思いもよらず反応する北木に絵里は目を丸くする。
北木はどうしようもなく自分とエニシが似ていて、声を上げずにはいられなかったのだ。
割って入ってきたものの、話の続かない北木に絵里は溜息をつく。
「職場にも若い子がどんどん増えて、そろそろ結婚しないのかよって囁かれても気にしないふり。でも、やっぱり焦る自分もいて、そんなとき神様が見合い話を持ってくる。気乗りしなくても、上司が持ってきた話は受けるほかない。運よく相手はいい人でクズハは好きになった。でもエニシは? 神様の言いつけで仕方なく結婚するのかもしれない。いままでの贈り物も会いに来ていたのも全部、神様に言われて仕方なしに……なんて思っているかもよ?」
「それは違う! お見合いをしたいと頼んだのは俺だ。縁朱様はよく仕事を放りだして結糸様に会いに行く。迎えに行ったときにクズハを見かけて一目惚れしたのだ。クズハがそんな風に感じていたなんて全く気付いていなかった」
「そのとき直接、告白してればこんなに拗れなかったのに……取り敢えず謝るんじゃなくて、ちゃんと考えて自分の気持ちを言葉で伝えた方がいいよ」
エニシは情けない顔で頷き「そうする」と納得したようだったが、北木は押し黙ったまま尻尾を床にダラリとさせたまま動かない。
――なんか耳に痛いことでも言っちゃった?
絵里としては解決の目処が見えたのに喜ぶ様子のない北木の様子は気になる。
「北木、今日は少し頭の中を整理してクズハのことを考えたい。申し訳ないが、明日までその姿で待ってもらえるか?」
「あぁ……かまわない」
文句の一つもなく了承する北木はひどく静かで、体調でも悪いのかと絵里は心配になってくる。
ぬいぐるみに体調も無いかと思い直し、場の空気を変えるようにエニシに話しかけた。
「ご、ご飯! エニシも夜ご飯食べていかない? ご飯食べられる?」
「夜飯は、ピザが食いたい」
「ピザ?! 油揚げの間違いじゃなく?」
「バイクで運ばれるのをよく見るが、神に仕えている身でつまみ食いも出来ないだろう? 景気付けに食べてみたい。それと油揚げはそんなに好きじゃない」
色々と突っ込みたかったが絵里はそんな会話にも一切反応を見せない北木の方が気になって、エニシには苦笑いを見せるだけに留める。
――どうしちゃったのかな?
北木を横目に宅配ピザのチラシを探すのにソファーから立ち上がり、人知れず肩を落としていた。
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