第24話

――狐には変なのしかいないの? こっちまで変だと思われたらたまらない




 すぐ後ろには目を擦り、鼻をすするエニシらしき狐男が付いてくる。




「待ってくれ! 俺はエニシだ。取り乱して済まなかった。これを持てば君たちも、人からは見えなくなる。クズハを知っているなら教えて欲しい!」




 必死な懇願に絵里は歩みを止めて振り返ると、エニシは着物の袖から一枚の葉っぱを出し、絵里に差し出した。



 クズハが消えた時にも見かけた葉っぱ。ここまで現実離れしたことばかり起きているせいか、エニシの言葉を疑うこともなく葉っぱを受け取る。




「これで人目を気にせずに話せるわけね……」



「クズハは君たちと一緒に居るのか?」




 体が大きく必死な為か異様な威圧感に絵里は後退る。その代わりに抱きかかえられた北木が話す。




「一緒にいるとも言える。僕の体をクズハが奪ってしまった」



「君の体を?! だから香りを辿れないのか……それでクズハは今どこにいるのだ?」



「おそらく、会社に現れる。こちらとしても体を一刻も早く取り戻したい」



「分かった君の人の姿を見せてくれたら直ぐに探し出そう」




 男同士の話はまとまりクズハの元へすぐさま向かうと息巻いていたが、絵里がそれを止める。




「エニシが迎えに行って、はい帰ります。なんてクズハが素直に帰ってくると思うの?」




 僅かな会話しかしていないが、ただ迎えにいって素直に帰るような性格ではないだろう。




――エニシって真面目そうだけど、なんか抜けてる感じがするんだよね。




 そもそも、クズハが結婚式から逃げ出した理由をエニシが知っているのかも怪しい気がして絵里は続けて問う。




「クズハがなんで結婚式を逃げ出したか理由分かってる?」



「結婚までの期間が短かった為に、不安になったからだと……」



「そうやって周りが言っていただけでしょう? それって知らないっていうんだよ」




 大きな体を縮こませ俯いてしまう。絵里はエニシに苛々して思わず北木を抱いている手に力が入り、北木に苦しいと腕をポスポス叩かれ気持ちを静める。




――これじゃ、破談になるかもね。先をみたらその方がクズハの為にはいいのかも。




 急に解決が難しくなったような雰囲気に、焦れた北木が割って入ってくる。




「この際、理由なんてどうでもいいじゃないか。取り敢えず謝って迎えにいけば気が済むだろう」



「とにかく、クズハと会って……」



「取り敢えず? 馬鹿じゃない。それともなめてんの? 話にならない」




 抱いていた北木をエニシの胸に押し付けるように渡すと、絵里は葉っぱを破り捨て背を向けて歩き出す。




「紺野君! な、どこへ行くんだ!?置いて行かないでくれ」



「帰るんです。ここの神様に、恋愛の勉強でもさせて貰ったらどうですか?」




 蔑むような目で北木を見て言い放つと、そのまま二度と振り向くことなく絵里は行ってしまう。




――なぜ、紺野君は怒ったんだ?




 取り残された男二人は呆然と立ち尽くし、絵里の背中を見送った

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