第25話

「北木、クズハが紺野の伴侶になると言ったのか? どういうことなんだ?」



「人の体で勝手に紺野君を誘惑していたんだ! どういことなのかはこちら聞きたい!」



「クズハは俺のことが好きでは無かったのだろうか……」




 境内の片隅に腰掛け男二人は無意味な言い合いをしていたが、エニシの落ち込みように北木が同情を寄せることで閉幕した。



 恋愛のアドバイスが出来るはずもない北木は、クズハが話していたことをそのままエニシに話した。




「怒ってはいたが、エニシのことを嫌いだとは言っていなかった。ただ、気持ちを聞いてないとか……どういうことなんだろうな?」



「結婚という形だけでは気持ちが伝わらないということなんだろうか? 北木はどうやって女性に気持ちを伝えている?」




 エニシに問われて北木は自分の行動を思い浮かべ、同じようなことを言われた記憶を思い出す。



 以前付き合った彼女には、プレゼントを贈ったりなるべく一緒に居る時間を大切にしていたが、欲しいのはこんなものではないと激怒され別れた。



 いまだに何が欲しかったのか分かっていない。

 


 最近は残業を言い訳に接近して絵里を拘束。気持ちを伝えるタイミングを計っている途中にこんなことになっている。




――俺の経験上分かるのは、このままだと別れて終わると言うことだけだ。




「済まないが、教えられるような伝え方を知らない」



「そうか……やはり女性に助言してもらうのが一番だ。北木、紺野の家に行くぞ」




 エニシは北木を小脇に抱えて立ち上がるが、北木は慌てて止める。



 あれだけ怒っていた絵里が今更、話など聞いてくれるわけがない。




「押し掛けてこれ以上の怒りを買うのは困る。もう少し時間が経ってから会いに行った方がいい」



「悠長なこと言っている場合ではないぞ北木! たとえ殴られようと背に腹はかえられぬ。クズハと会うためならば何度でも頭を下げよう。北木だとて、一刻も早くもとの姿に戻りたいのだろう?」




 もっともな話だ。姿を取り戻さなければ北木自身も何も始まらない。




――本当に恰好をつけて悠長に身を任せている場合ではないな。取り返しがつかなくなる前になんとかしなければ!




 北木はエニシと顔を合わせ頷きあうと、絵里の元へと急いで向かった。

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