帰宅

第7話

電車に揺られどうにもスッキリしない気持ちで絵里は自宅マンションに帰宅した。




「ただいま~」




 部屋の電気を点け、ソファーの上に紙袋を置くとガサガサと狐のぬいぐるみが顔を覗かせる。



 袋の中から周りを見回し、ほっと息をついて出てきた。




「お邪魔します」



「なにか飲みますか?」



「おかまいなく……」



 まだお互いに混乱している部分が大きく、会話も間々ならない。


 

 深く考えずに北木を家に連れ帰った絵里だが、その判断が良かったのかも不安になってくる。




――取り敢えず、着替えてご飯作るか。




 狐のぬいぐるみが客というなんとも変な状況。帰り道でほんの少しだけ取り戻した余裕が、何とかなるだろうと楽観的な考えを呼び覚ましていた。




「着替えたらご飯作りますけど、なにかリクエストありますか?」



「いや……この体では食べられそうにない」



「あぁ。でもここで餓死とかやめて下さいね」



「物騒なこと言わないでくれ!」




 狐のぬいぐるみが北木だと分かっていても絵里はついつい、からかってしまう。中身はともかく短い手をばたつかせ、ふさっりした尻尾をピンッと立てて怒る姿が可愛いのだ。




――やばい、ちょっと癒される感じがする。




 癒されている場合ではないのだと、絵里は自分に言い聞かせ首を振る。



 着替えついでに風呂に入って来ると北木に告げてその場を去って行く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る