第5話
床で短い手足をばたつかせ、大きな尻尾を振りながら叫ぶ狐のぬいぐるみを唖然と見つめる。
――なんじゃこりゃって、こっちが聞きたいから!
身構えながら心の中で突っ込んでいると、やっと絵里の存在を思い出したように狐のぬいぐるみが振り返る。
狐のぬいぐるみからは表情を読み取ることは出来なかったが、酷く動揺しているのは絵里にも伝わる。
「紺野君? これはいったいどんな状況?」
「そ、その声は……まさか北木課長?」
絵里は膝を床に付けて2本足で立っている狐のぬいぐるみに顔を近づけた。
――どっかにマイクでも仕込んであるの?
揺れる尻尾を掴んでお腹のあたりをグニグニと押して中になにか入っていないか確かめる。
「や、やめてくれ! ハハッくすぐったい! こ、紺野君やっ!」
こんな悪戯、質が悪い。絵里の手から逃れようと暴れる狐のぬいぐるみを頭の先から掴んでいた尻尾の先までくまなく探るが、マイクらしきものはない。
――どういうこと?
「ハァ、ハァ……なにをするんだ君は……」
「マイクが無い。本当に北木課長? 本当に狐?」
パニック寸前の絵里は、狐のぬいぐるみをデスクに置き椅子に座った。
狐のぬいぐるみは自分の体を確かめるように忙しなく動いている。
――この状況はなんと言うか
「狐につままれる……」
目をかたく閉じてゆっくりと開くが狐のぬいぐるみはデスクの上で動いていて、狐につままれたままだ。
ついでに頬を抓って見るが効果はなく、夢ではないことに只々、困惑していた。
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