第10話

獏はアキを喰らうと、また元の着物姿の男に戻りお腹をさすっていた。






「ちょっと!不味いって随分じゃない?」






妖艶な女は片眉をつり上げて獏に不服とばかりに文句を言った。






「魂を取り違えるような、おっちょこちょいな死神の料理に期待はしてませんでしたけど、本当に酷い。赤字だ」



「急いでたんだから、仕方ないじゃない!おっちょこちょいって言わないでくれる?」



「死神のおっちょこちょいで魂を取り違いられる方はたまったもんじゃない。それに、覚めない夢ほど不味いものはない」






死神に冷たい視線を送る。



死神は何も言わずカツカツと闇にハイヒールの音を響かせて獏に近づく。






「今度から気をつけるわよ。お代に足りないぶんはこれで埋めて頂戴」






獏の着物の襟を掴んで引き寄せると、真っ赤な唇を獏の唇に近づけてペロリと獏の唇を舐め上げた。



死神は妖艶な笑を見せると片手に人魂を乗せ、ハイヒールの音を響かせて闇に消えていった。






「死神に唾を付けられるなんてゾッとしないねぇ。付けにしときますか」






身震いする獏の足元に闇が集まると、元通りの世界が広がる。



道路を走る車、行き交う人々。横断歩道の脇に広げた風呂敷の上にはガラクタが並ぶ。






「さてと、店仕舞いとしますか・・・・・・」






風呂敷を包もうとしている前を花束を持った男が通りすぎる。



横断歩道の脇にその花束を供えていた。






「おや、こりゃ口直し・・・・・・お代に足りない分を回収できそうだ」






目に涙を浮かべて手を合わせる男に声をかける。






「戻りたい、代わりたいですか?あなたにぴったりの商品がございます。切符でございます。そうそう、大切なことを忘れてました。こちらは 『片道切符』 帰りの切符はござい

ません。あしからず・・・・・・」










おしまい

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片道切符 [完] 直弥 @ginbotan

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